APRのコルトー戦後録音第四集
APRはここ数年にわたってコルトーの戦後録音(なかには貴重な未発表音源も含まれます)を復刻してきましたが、このたび第四集がリリースされました。主に一九五三年から翌年にかけてのテープ録音が収録されています。少々予想外だったのは今回がシリーズ最終巻になるということで、ついに葬送ソナタ(全曲)や子供の情景、交響的練習曲の再録音、再々録音などは復刻されませんでした。集大成的なリリースになることを期待していましたから、その点は惜しまれます。*1
曲目は以下のとおりです。
- シューベルト:楽興の時 第三番(一九五四年)
- 同:十二のレントラー(一九五一年)
- 同:リタニー(コルトー編、一九五三年)
- リスト:ハンガリー狂詩曲第十一番(一九五三年)
- シューマン:謝肉祭(一九五三年)
- ショパン:ノクターン Op.15-2(一九五四年)
- 同:エチュード Op.10-5, 25-2, 25-9(一九五四年)
- 同:ピアノ・ソナタ第二番/葬送行進曲(一九五三年)*2
- 同:タランテラ(一九五四年)
- 同:ピアノ・ソナタ第三番/ラルゴ(一九五四年)
- 同:ワルツ第七番(一九五四年)
ショパンの第三ソナタのラルゴは、HUNTのディスコグラフィーにも載っていない録音ですが、解説子によれば上記の葬送行進曲と組み合わせてリリースされたものだとか(だとしたらものすごいレア盤なのでは……?)。ほかにリタニーとハンガリー狂詩曲がCD初出だそうですが、それらは同時期に録音された同曲異演があるのであまり目新しさは感じられないというのが正直なところではあります。
期待のラルゴは、ときに少々イージーゴーイングな感じがするのが惜しいです(たとえば、対位法的な動きをする場面で表情に乏しい左手の動き)。どことなく、先だって聴いた一九五七年録音のバラードを想起させる出来でした。葬送ソナタや前奏曲集のようにすっかり手の内に収まっている十八番との差は歴然で、とくにこの曲は、コルトーにとって最後まで「遠い」音楽だったのかな――と感じます。*3
音質は、近頃のAPR特有の安直なフィルタリングに害されたぼやけた響きでとうてい感心できませんが、謝肉祭だけは例外的にスッキリした音です。音源は(ALP 1142)との記載ですが、それにしてはサーフェイス・ノイズがまったく乗っていないので、ひょっとすると既出CDをいじったものではないかしらん……しかし結果からいえば、いささかドライな響きのG○シリーズよりむしろ雰囲気があって聴きやすい音に仕上がっていると感じました。『二十世紀の名ピアニスト』シリーズ第一集のUK盤初版に収められたものより音色が自然ですし。これは悪くありません。*4
最後になりましたが、ライナーノートに掲載されたレコーディング・データはいつもながら詳細で、これのために買ったと思っても惜しくない出来です。例によってHUNT版と食いちがった記述が散見されますのでこれからじっくり比較検討してゆきたいところ。