リヒテルのガーシュウィン

リヒテルが弾くガーシュウィンのピアノ協奏曲がHAENSSLERから出ました。このCDについて「こんなのジャズじゃない」という非難の声が一部から寄せられているようで、それも一見もっともなのですが、当のリヒテルはこんなことをいっていたとご紹介しておきましょう。


『(ドビュッシーエチュード)第十二番を弾くときの私は、今やジャズ・ピアニストだ。なかなかのものだよ!』*1

たぶん、ガーシュウィンを弾いているときの自分も、なかなかのジャズ・ピアニストだと思っていたのではないでしょうか(笑)

聴いてみると、まあたしかにリズムが軽快だとは口が裂けてもいえませんが、重苦しいほどでもない。年老いたリヒテルのピアノは良くも悪くも脂っけが抜けていたので、それが功を奏しているかもしれませんね。少なくとも、当人は愉しんで弾いているのが聴き手にも伝わってきます。指揮のエッシェンバッハについてもあまり評判はよくないようですが、たとえばコステラネッツとリヒテルが共演するよりはよほど相性がよかったのでは、と思えば、非難するには当たらないような気も(笑)

この曲はどうしてもリヒテルで聴くべき、とまではさすがにいえないかもしれませんが、実はリヒテルの演奏を聴いてからというもの、他の演奏ではどうしても二楽章に満足できなくなってしまいました。たとえばINAのサイトで聴くことができるワイエンベルグ/デルヴォー/フランス国立放送管のライヴがそう。薄っぺらく、ただ単に雰囲気的であるにすぎない音楽――ジャズとしてはそれで十分なのかもしれませんし、両端楽章はなかなかいい出来だと思うのですが、わたしとしてはずっしりした手ごたえを感じさせるリヒテルの呪縛を甘受しようと思います。

ちなみに、カップリング曲のエジプト風も、コンドラシンとのスタジオ録音よりいい出来ではないかと。

*1:ユーリー・ボリソフ『リヒテルは語る』、二五三頁