2007-09-01から1ヶ月間の記事一覧

フルトヴェングラーのブルックナー(一〇)

そう考えるとこの演奏で使用版が変更された背景にはもっと積極的な、改訂版で演奏したいというフルトヴェングラーの意思が働いていたとみなすのが自然であるように思われます。蓋しハース版に改訂的表現を持ち込むだけではもはや巨匠の表現欲求は満たされな…

フルトヴェングラーのブルックナー(九)

巨匠は一九五四年に第八交響曲を指揮していますが、これ、近年に至るまで演奏の真偽をめぐって議論が繰り広げられていた問題の録音です(現在はフルトヴェングラーの真正演奏であると決着がつきました)。一九四九年の演奏と比較してまず違うのは、こちらで…

フルトヴェングラーのブルックナー(八)

フルトヴェングラーはブルックナーに対して並々ならぬ情熱を傾けていましたが、この作曲家の音楽構造に対してはある意味で懐疑的だったようで、手記には『法外に長い作品(ブルックナー)に対する聴衆の嫌悪は、もっともな根拠を有している』などといった記…

フルトヴェングラーのブルックナー(七)

唐突に聞こえるかもしれませんが、四十年代のフルトヴェングラーはハースの呪縛にとらわれていたのではなかろうか、とわたしは推測しています。改訂版と原典版の違いといえば管弦楽法やカットのことが専ら話題に上りますが、ハースが従来版の表情記号だの漸…

フルトヴェングラーのブルックナー(六)

裁量の当不当という見地からフルトヴェングラーの版選択を検討することによって納得のゆく事象がいろいろあります。ご承知の通り第五、第九は原典版、第四、第七は改訂版を使っていた巨匠ですが、たとえば第四の三楽章でレーヴェによるカットを復元したかと…

フルトヴェングラーのブルックナー(五)

この辺でフルトヴェングラーと版問題の関係を探る上での原資料を整理してみます。 一九三四年の手記(白水社『フルトヴェングラー 音楽ノート』十二頁)……(a) 一九三四年の講演『アントン・ブルックナー』(白水社『音と言葉』一〇九頁)……(b) 一九四一年の…

フルトヴェングラーのブルックナー(四)

件の手記が記された年にフルトヴェングラーは第九を指揮していますが、おそらくレーヴェ版による演奏であったと思われます(このコンサートの準備として譜読みした感想がああだったとみなすのが自然でしょう)。しかし、何度も述べてきたことですがわたした…

フルトヴェングラーのブルックナー(三)

それではどうしてアードインはかかる錯覚に陥ったのでしょうか。ひとつにはフルトヴェングラーが一九三九年に行った講演『アントン・ブルックナー』による影響があるでしょう。ここでフルトヴェングラーは原典版、ことに第五のそれを高く評価しているため、…

フルトヴェングラーのブルックナー(二)

たとえばコルトーのショパン、シューマンというと「時代がかった解釈」と指弾なさるモダーンな趣味に溢れた聴き巧者の方々が、ことフルトヴェングラーのブルックナーに関しては演奏された時代背景に対する考慮を等閑に付しておられるような気がわたしにはし…

フルトヴェングラーのブルックナー(一)

毀誉褒貶の甚だしきもの、と書きつければ最初に思い浮かぶのがフルトヴェングラーのブルックナーです。一昔前はそれこそ「毀」「貶」一辺倒の評価でしたが、近年一部熱狂的ファンによる巻き返しが見られるようになりました。しかるに、好悪のベクトルこそ正…

私的十大レーベル(一〇)

さて、脱線しまくりながらわたしの心のふるさと的レーベルにまつわる思い出話をだらだら書き連ねてきましたが、 ARKADIA DANTE=ARLECCHINO BIDDULPH PEARL ARTISTS EXCLUSIVE METEOR AUDIOR MUSIC & ARTS と、ベスト・ナインまでは出揃いました(順不同)。…

私的十大レーベル(九)

さて、ホンマにアメリカで作ってるのにアメリカでは売ることの出来ないCDを出している、あのレーベルを忘れてはいけません。海の王者ことMUSIC & ARTSです。さすがに「ワルター協会って言ったほうがシックリくるなあ」というほど年寄りではありません(それ…

私的十大レーベル(八)

METEORとくればAUDIORですな。METEORとほぼ同じような理由で「緑」と略称されます。さて、わたしがチェリを聴き始めたころ、実はMETEORはもう休眠状態でした。リアルタイムに出ていたのがAUDIORです。そういうわけで紫が新宿でミッドプライス(+α)だったの…

私的十大レーベル(七)

そろそろ、made in USAの草分け(?)、METEORのことでも。紫一色のジャケットに肖像写真という作りだったので、一般に「紫」と略称されています(どんな一般だ)。このレーベルの思い出は、わたしの中で、まるで秘密結社の総本山みたいにアヤシイ雰囲気が炸…

私的十大レーベル(六)

雑談つながり。日本で作って日本製を標榜する漢気のあるレーベルが過去には存在しました。まあ、その頃は違法ではなかったからといってしまえばそれまでなのですが。WINGは趣味性が強いを通り越している気配がなきにしもあらずな歴史的録音ばっかり復刻して…

私的十大レーベル(五)

今回はちょっと脱線ということでイタリアンなステキレーベルをいろいろ思い出してみます。MELODRAM。ここの代表盤といえば、アレですよ、コルトー/フリッチャイのシューマン(イ短調協奏曲と葬送ソナタはグリーンドアから再復刻されましたが……)。他に手許に…

私的十大レーベル(四)

いまは海賊盤といえばMADE IN USAばっかりですが一昔前はイタリア製が専らでした。改悪前著作権法の関係ですね(またトシが分かるような話を……)。というわけでイタリア製のARTISTS、EXCLUSIVEはチェリ海賊盤の初期を代表するレーベルといってもさしつかえな…