人気と実力の不相関について

タワーレコードから復刻された、ホルショフスキのNONESUCH録音集成を聴きました。このピアニストがカザルス・ホールのオープニング・コンサートのために来日してベーム以来の熱狂を引き起こした一九八七年前後、年齢でいえば九十四歳から九十八歳にかけてのスタジオ録音です。

何しろトシがトシなので粗探しするような聴き方はふさわしくない。そりゃあ重々承知の上ですが、正直に申し上げれば、「ま、こんなもんか」というのが第一印象でした。すくなくともホルショフスキのピアノは、聴いていて演奏家の年齢など忘れさせてくれるようなものではありません(最晩年のプランテやザウアーがそうであったようには)。

ケチをつけるつもりはありませんが、このホルショフスキの演奏にそこまでアツくなれるのであれば、プランテやザウアーはいわずもがな、ここで取り上げられているのと同じモーツァルトニ短調幻想曲とソナタの第十七番をほぼ同じ年回りで弾いているヴァルマレート(ARBITER)などはホルショフスキよりはるかに高く評価されなくてはならなかったはずだとわたしは思うのですが、事実はさにあらず……