2010-03-01から1ヶ月間の記事一覧

マタチッチのブルックナー/第五交響曲

マタチッチがN響を指揮したブルックナーの五番を聴きました。一九六七年のライヴ録音です(ALTUS)。スプラフォン盤は改訂版による演奏として知られていますが、今回のライヴ録音も、その道に詳しい向きによれば、ほぼ同じ版形態によるものだとか。ここで留…

思い出はうつくしく

朝比奈翁が一九七三年の東京討入りで指揮したブルックナーの第五を聴きました。一部では伝説のライヴと呼ばれているものだとか。翁のブルックナーはわたしも何度か実演で聴いており、そのたび深い感慨を得たものですが、これはカタカナ発音のドイツ語みたよ…

ビシュコフふたたび

ロシア物は今ひとつ冴えなかったビシュコフ/N響ですが、ワーグナーとマーラーのプロは面白かったです。スヴェトラーノフのマーラーは(第七の実演を聴いた限りでは)借りてきたネコみたいに大人しい演奏でしたが、ビシュコフはその逆を張る恰好。先日視聴し…

フーベルマンのベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲

フーベルマンが弾いたベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲には、有名なスタジオ録音と、渡米後のライヴ録音とがあります。わたしが今回聴いたのは後者。クロイツェル(シュルツェと組んだブランズウィック盤。再録音はフリードマンのピアノがなあ……)は感心…

デ・ヴィートのベートーヴェン

ジョコンダ・デ・ヴィートはベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を得意としていて、ついに正規録音を残さなかったことを悔やんでいたといわれますが、彼女の死後、プライヴェート音源がリリースされました(これをリリースしたものかどうか、デ・ヴィート本…

恥っつぁらしな人生よ

先日記事を上げたあと、ふと(これまで何のかんがえもなしに「ヴォルフシュタール」と書いてきたけど、Hofmannstahl は「ホフマンスタール」だったよな……)と気になって調べてみました。Wiki の解説子曰く、この苗字は「Hofmann(貴族の称号を受ける以前の名…

フリーダー・ワイスマン

フリーダー・ワイスマンといわれてもご存知ない方が多いかと思いますが、骨董録音愛好家には、ヴォルフスタールのトルコ風やローゼンタールのショパンの第一協奏曲でよき引き立て役を演じている指揮者として、記憶にのこるひとです。そのワイスマンが四十年…

ヴォルフスタールのベートーヴェン

エネスコは別格として、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲ではヴォルフスタールの演奏に特別の愛着があります。フレッシュ門下でコンマス稼業と二足の草鞋、という共通点を有することもあってか、ゴールトベルクとかなり似たタイプの奏者ですが、清楚玲瓏…

シューリヒトのブルックナー/第五交響曲

シューリヒトが指揮するブルックナーの第五を聴きました。ウィーン・フィルとの一九六三年ライヴで、DGGから一度出たきり「幻の名演」と一部で噂になっていた録音です(ALTUS)。スサマジイ演奏でした。個人的には、良くも悪くも――と付け加えたい誘惑に駆ら…

メンデルスゾーンで全力投球されてもなあ

小菅優さんの独奏でメンデルスゾーンのピアノ協奏曲第一番を視聴しました(オケは下野竜也指揮の読売日響)。メンデルスゾーンをリストと勘違いしてるんじゃなかろうか。コンクールの審査基準でいえば問題なく弾けているんでしょうけど、テクニックに余裕が…

ショパンのバラード第四番

ギンズブルグ(一九四九年、ARLECCHINO) コルトーは九分半くらいで弾いているこの曲ですが、ギンズブルグの演奏は十二分オーバーと、SPレコード一面分余計にかかっている勘定(ただし、ロシアのピアニストは十一分くらいの演奏が多いです)。弾こうと思えば…

アンセルメのベルク

アンセルメといえば、数十年来の親友ストラヴィンスキーが十二音で書き出したからといって大人気なく絶交してしまうくらいのアンチ・ドデカフォニストとして知られていますが、シェーンベルク門下のベルクは例外的にお眼鏡に適ったと見えて、いくつかの録音…

古い手帳から

(ほめるところがないものについてどうこう云うのは唇さむき心地するものですが、ネタが切れたら仕方がない、以前書き捨てたものを……)先日BSで諏訪内晶子とニコラ・アンゲリッシュのデュオ・リサイタルが放送されました。曲目は、モーツァルトのK454、ドビ…

ビシュコフ/N響

ビシュコフ指揮N響の定期公演を視聴しました。ショスタコーヴィチの第一交響曲と春の祭典のプログラムです。面構えと音楽性がえらいかけはなれているなあ、というのが第一印象。ロシアらしいコッテリとした、聴いていてグッと来るような何かは驚くほど希薄…

『ツィゴイネルワイゼン』(鈴木清順、一九八〇年)

『ツィゴイネルワイゼン』を見ました。監督の鈴木清順は「お前の映画は訳が分からん」といわれて日活をクビになったひと。雌伏十年、返り咲きしてからは以前にもましてワケがわからない映画を撮りつづけました。これは復活後のアート(?)路線の作品です。*…

マ・メール・ロワ(承前)

(ここの続きと思ってください)何のかのといって、オリジナルの組曲版によるチェリビダッケ/ロンドン響のライヴこそはわたしにとって至上のマ・メール・ロワです。先師のラヴェルはいずれ劣らぬ名演揃いですが、なかでもこの演奏は、フランス国立放送管を振…

せきあえぬ血涙

広上淳一指揮のN響でプロコフィエフの第七交響曲を視聴しました。広上氏の指揮姿をみるのはこれがはじめてですが、最初は「コマ落ちしてるんじゃないか」と思いましたね、いや本当に。チャップリンやバスター・キートンのサイレント映画を見ているような錯覚…

浦島太郎

ハードディスク・レコーダーの中身を調べていたら、木嶋真優さんという若いヴァイオリニストが「ヴィターリの」シャコンヌを弾いていました。……この曲って、ヴィターリが作者ではなかったんだそうですね(「作曲者不詳」らしい)。今日の今日まで知りませな…

魅惑的な拒否、きびしい拒絶

田中希代子はミケランジェリが嫌いだったと云います(山野楽器のCD解説に収められた『安川加壽子、田中希代子を語る(2)』)。『ああいう音色がないというか、音色を殺すようなピアニストは駄目だと』この批判に対してはふたつの反応が考えられるでしょう…

モリーニのベートーヴェン

よい悪いは別として、もっとも強烈な印象を受けたベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲のひとつに、エリカ・モリーニのライヴ録音があります(DOREMI)。一九四四年、ゴルシュマン指揮ニューヨーク・フィルとの共演です。この盤で何がすごいといって、一楽章…

ヨッフムの謎

ヨッフムの、とくに晩年の演奏を聴くと、ほんとうに良い音楽だなあといつも思います。コンセルトヘボウとの最後の共演となったブルックナーの第五交響曲(TAHRA)は、チェリビダッケのベルリン討入りライヴに匹敵しうる数少ない演奏のひとつだと思いますし、…

マ・メール・ロワ

ラヴェルのマ・メール・ロワには作曲家自身による三つのエディションがあります。ピアノ連弾版、それをオーケストレーションした管弦楽のための組曲版、そしてバレエ版です。連弾版については別の機会に譲るとして、組曲版とバレエ版とでは何が違っているの…

バルビローリ・フリオーソ

思うに、バルビローリにはふたつの顔があります。先日触れた≪マイスタージンガー≫のように、さながら温雅なイギリス紳士を絵に描いたかのごとき演奏がある一方で、チャイコフスキーの第五交響曲では、何があったのかと思うような荒れ狂いっぷりを見せていま…

バルビローリの≪マイスタージンガー≫前奏曲

バルビローリの≪マイスタージンガー≫前奏曲を聴きました。オケはいつものハレ管ではなくロンドン響、一九六九年のスタジオ録音です(cf.→HMV)。一聴、よくも悪くも耳馴染みのない、生まれて初めて聴いたような思いのするワーグナーでした――よくいえば各声部…

疑問符

『題名のない音楽会』にブーニンが出ていたので見ました。 ピアノはファツィオーリ。 通訳がいるけど、ロシア語じゃなくてドイツ語で話してます。どういうわけ!? ピアノの弾き方、ここまで来ると変人弾きですな(グールドじゃあるまいし……)。 わたしが何…

たまに映画のはなし

『堂々現役』という番組で岡田茉莉子のインタヴューをみました。ますますお元気なようで何よりです。しかし、福田和也はインタヴュアーとしてあまりにも不勉強ですね。開口一番、バコールやバーグマンには自伝があるけど日本の女優さんには例がない、と抜か…

ピアノとピアニスト

フランソワとプリッチャードの指揮するフランス国立放送管によるラヴェルの協奏曲の映像(EMI)は、これがあればクの字の伴奏を聴かないで済むというだけでも大いにありがたいところ、スタジオ録音以上の鬼気と冴えにあふれているという特筆すべき演奏なので…

アレクセイ・リュビモフ

アレクセイ・リュビモフはナウモフ門下(大ネイガウスの孫弟子といった方が分かりやすいでしょうか)のピアニストで、ロシアの現役演奏家としては最高ランクに位置付けられる存在です。……ですが、この人の録音はそれなりに意識して聴いてきたつもりですけど…

マリーラ・ヨナス

マリーラ・ヨナスというポーランド出身のピアニストは、数奇といえばあまりにも数奇な運命を辿ったひとで、わたしはその経歴を知ったうえで関心を抱いてCD(cf.→HMV)を取り寄せたのですが、仮にそのような予断がなかったとしたら、この演奏を聴いてどう思っ…

リフシッツのショパン

コンスタンティン・リフシッツは実演に接したことのあるピアニストです。そのときのプログラムのメインはたしかシューベルトのソナタ第二〇番で、これは二楽章などけっこう本式におどろおどろしくて良かったですが、何曲か弾かれたショパンは、色々やろうと…