マ・メール・ロワ

ラヴェルマ・メール・ロワには作曲家自身による三つのエディションがあります。ピアノ連弾版、それをオーケストレーションした管弦楽のための組曲版、そしてバレエ版です。

連弾版については別の機会に譲るとして、組曲版とバレエ版とでは何が違っているのか、というと、後者においては、新たに作曲された≪前奏曲≫と≪紡ぎ車の踊りと情景≫が曲頭を飾り、曲間も≪間奏曲≫で滑らかに接続されるようになっています。そしてもうひとつ、≪美女と野獣の対話≫が≪眠れる森の美女のパヴァーヌ≫のすぐ後に移動しているのです(詳しくはこちらをご参照あれ)。これは、ロジャー・ニコルスによると『王子様』を早い段階で出す必要があるためだとか。換言すれば、必ずしも音楽的な理由に由来するわけではないでしょう。

マーラーの第六も然り、曲順の問題は意外と馬鹿になりません。オリジナルの五曲の演奏順の、計算されつくしたバランスの良さに比べると、たとえば、≪妖精の園≫の前が≪パゴダの女王≫だというのは、わたしに云わせれば、台無しもいいところです。あらたに間奏曲を作曲した作曲家の苦心をもってしても、その不自然さは完全に払拭されているとはいえないようにわたしは思います。

組曲版、バレエ版、それぞれによる演奏がいろいろ存在するわけですが、ラヴェルと親交のあったアンセルメはそのどちらとも違った形態で演奏・録音することを選んでいます。簡単にいえば、≪パヴァーヌ≫まではバレエ、そこから先は組曲で、という折衷版です(ジュネーヴの巨匠の名を借りて、以下アンセルメ版と仮称します)。

個人的には、この版による演奏がもっとも好ましく思われます。≪前奏曲≫は無視するには惜しいうつくしさですし、あとの五曲の演奏順はこうした方がやはり坐りが良いです。いってみればいいとこ取り。わたしの知る限りで、アンセルメ版による演奏は他にアンゲルブレシュトやフレイタス=ブランコがあります。

ただ、チェリ様があえて本来の組曲版による演奏にこだわったのだとすれば、その理由も何となく察しがつくような気がします。アンセルメ版だと最初の三曲が続けて演奏されるため、頭でっかちになるといや云えなくもないですから。