疑問符

題名のない音楽会』にブーニンが出ていたので見ました。

  • ピアノはファツィオーリ。
  • 通訳がいるけど、ロシア語じゃなくてドイツ語で話してます。どういうわけ!?
  • ピアノの弾き方、ここまで来ると変人弾きですな(グールドじゃあるまいし……)。

わたしが何度か彼の実演に接したのはもう十数年前のことですが、その頃と比べても、ブーニンの演奏は度を越したマニエリスムに侵されていると感じられました。指はけっこう回ってるし、タッチも美しい(ことに弱音)のですが、音楽の流れに自然さがまるでないのです――

解釈も技巧も捨てるならば、『まことに』良く演奏できる。解釈は、先入観、つまり作り上げられた情緒にすぎない。技巧はといえば、それによって意に反してでも演奏できるようになる、決り文句(公式)にすぎない。*1

フランソワがこんなことを語っていますが、ブーニンの≪マニエラ≫こそ、まさしく意に反してでも演奏できるようになるための公式に他ならないのではないか、とわたしは怖れます。考えたくないことですが、このピアニストは、もう自分の内側から音楽が湧き出てこないことを糊塗するために、かかる極度に人工的なスタイルに逃避しているのではないか、という思いをどうしても払いのけることができませんでした……

どうしてこんなことになってしまったのだろう。悲しくて仕方ありません。

*1:青柳いづみこ『ピアニストが見たピアニスト』二一九頁