アレクセイ・リュビモフ

アレクセイ・リュビモフはナウモフ門下(大ネイガウスの孫弟子といった方が分かりやすいでしょうか)のピアニストで、ロシアの現役演奏家としては最高ランクに位置付けられる存在です。

……ですが、この人の録音はそれなりに意識して聴いてきたつもりですけど、今ひとつピンとこないんですよね。

たとえばモーツァルトイ短調ソナタ(ERATO)。決して悪い演奏ではありません。だけどリュビモフならではの何かがあるかというとそういう要素が希薄に感じられるのです。この曲の場合そうでなくてもリパッティや Rosita Renard のような超絶名演がひしめいていますからこの演奏の影はなおさら薄くもなるというもの。

これはフォルテピアノによる演奏で、現代ピアノと比較してダイナミクス・レンジが狭いのは今更指摘するまでもありますまいが、ヴォリュームの問題もさることながら、弱音の表現力に限界が感じられるのがアナクロニストには物足りなく感じられました。

「古典か現代ものばかり弾いてるけど、ロマン派だって上手いんだよ」と師匠のナウモフも嘆いたとかいうリュビモフが珍しく(?)手掛けたロマンティック・レパートリーのひとつがラフマニノフの第四協奏曲(APEX)ですが、これは、リュビモフと比べたらあのミケランジェリでさえ爛熟したロマンの香る情熱家に聴こえる、というシロモノでした――イタリアのピアニストに輪をかけて透明無臭なラフマニノフを弾いているのがロシア人である、というのは、ある意味個性的といえばいえなくもないかもしれませんが……(^^;

そのかわり、といっては何ですが、カップリングされたストラヴィンスキーの協奏曲はとてもみごとな出来でした。ラフマニノフを弾いているときとは別人のように気合が入ってます――やっぱり近現代ものが弾いていていちばん楽しいのでしょうな。

昨年お亡くなりになった佐藤泰一氏は、リュビモフのドビュッシー前奏曲集)を「これくらい味の濃いドビュッシーもない」と絶賛しておられましたが、いちど聴いてみたいものです。