デ・ヴィートのベートーヴェン

ジョコンダ・デ・ヴィートベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を得意としていて、ついに正規録音を残さなかったことを悔やんでいたといわれますが、彼女の死後、プライヴェート音源がリリースされました(これをリリースしたものかどうか、デ・ヴィート本人も検討していたとか)。伴奏をつとめる指揮者は不詳で、一部でこれはフルトヴェングラーかと騒がれていますが、ルネ・トレミヌによるフルトヴェングラーのコンサート・リスト(二〇〇四年版)を瞥見するかぎり、彼らがこの曲を共演した記録は見つかりません。

一楽章の冒頭のアインガングから、デ・ヴィートデ・ヴィート以外の何者でもありません。マホガニーの古家具のように深みのある光沢を放つその音色は、ヴァイオリンという楽器が追求しうるひびきの美しさのある一極限に達したものです。ただただ、ほれぼれとします。

全体的には、彼女のベスト・フォームたるブラームスの協奏曲などと比較すると、いささか緊張感に乏しいため、これがリリースされなかった理由も分からぬでもない――といったところですが、それでも、聴けないよりは聴けて良かったと心から思います。