ヴァント、ケルン放送響のブルックナー/交響曲全集

ふだんはあまり聴かないヴァントですが、馬鹿みたいな廉価に思わずポチってしまいました(^^;

六十代と、指揮者としてはまだこれからという時期の演奏ということもあってかスケール感は控えめですが、いくら強奏してもまったく雑味がまじらないブラスのユニゾンの響きひとつとってもこの指揮者の尋常ならざるオケのしごきっぷりが目に浮かぶようで、九十年代以降の、(いまにして思えば)出来不出来の激しい晩年の演奏だけを聴いていては見えてこなかった、職人指揮者としてのヴァントの姿がそこにはあります。

この芸風は、どこか芥川の小説をわたしに想起させます――よくできていて感心するけど、必ずしも感動はしない――それでも、第二や第五はこじんまりとしたなりに曲のよさが素直に伝わってきて、なかなか良かったです。とくに前者のフィナーレの軽やかな歩みなど、自分のアタマのなかで凝り固まりかけていたブルックナー像の重厚さを良い意味で裏切ってくれて新鮮でした。一方で第三交響曲は、上記二曲と基本的にはなにも変わっていない演奏のはずですが、聴いていてどうも食い足りない。これはどうしてかしらん。

それと、第一交響曲のウィーン版を聴くのは今回がはじめてだった*1のですが、まるでシャルクかレーヴェの改訂版みたいにゴテゴテした異様なひびきでビックリしました(ブルックナー本人が手がけた改稿のはずなのに……)。どうりで、たいていの指揮者はリンツ版で振るわけだ、と納得した次第。*2

ただ、考えようによっては、「改竄版」として頭ごなしに否定されがちな門弟のアレンジも、実はこのウィーン版の線でなしとげられた「オーセンティック」な仕事だったのだ、とみなすことができそうではあります。

*1:これのためにCD九枚のセットを買ったようなもの、といっても過言ではなかったりして……!?

*2:ヴァントは第一交響曲を「病的だ」といってこの録音以降はとりあげようとしなかったそうですが、それはあんたがウィーン版にこだわるからじゃないの、と思ったり思わなかったり。