それとも、実演だとまるで違って聞こえるとか……!?

ベーム現象というやつはわが国の伝統的傾向とみえて、ここ数年話題になっているのが指揮者のプレートルとピアニストのチッコリーニです。十数年前のことを思えば、チッコリーニは「サティとかセヴラックとか弾いてる便利屋」という印象しかなかったと思いますよ。わたしに限らず、これをお読みになっているあなた方も……(無論、例外のない法則は存在しませんが)

わたしも遅ればせながらチッコリーニの録音を聴いてみました。シューマンのウィーンの謝肉祭の道化と森の情景、ピアノ・ソナタ第三番という組み合わせのCASCAVELLE盤です。

CDの再生ボタンを押した瞬間から、さっそく後悔にかられます――なんとまあ雑な和音の鳴らし方!ミケランジェリを持ち出すまでもなく、「タッチが乱暴だ」と決めつけられがちなリヒテルの、イタリア・ライヴでもヘルシンキ・ライヴでもいいから、同じウィーンの謝肉祭の道化を聴いてごらんなさい。リヒテルがどれほどきちんとひびきをコントロールできているかがよーく分かるでしょう(まあ、チッコリーニと比べること自体リヒテルに失礼というものか……)。

主に最後のソナタを聴いた印象ですけど、まったく採れません。タッチが雑なことに加えて(これがノンシャランな味ってもんだよ、というのであれば、ンなもん分かりたくもない、と答えましょう)、テンポ設定が単視眼的で、主旋律を弾きたいように弾くことしか考えていないからもう片方の手のアーティキュレーションに気がまわらず(特にフィナーレが酷い)、ひびきが常にガチャガチャしています。そう聞こえるのは声部のバランスの悪さもまた影響しているでしょう――わたしにとっては、ひとことでいって、耳への拷問です。

これ、二〇〇二年の録音なんですけど、まだ「円熟」が足りていないんでしょうかね???