アレクサンダー・マッジャーのリサイタル

アレクサンダー・マッジャーというピアニストのリサイタルをテレビで観ました。曲目はドビュッシーエチュードの抜粋とショパンの作品二十五の全曲です。

ベルグラードの生まれで生地の音楽院に学んだ、という経歴からすると、最近すっかり化けの皮がはがれてきたハゲ野郎の後輩に当たるわけですが、外見からして奴とは正反対の優等生タイプです。音楽もまた見かけ通りで、いまどきあまり見かけなくなった肘から先だけでピアノを弾いているタイプの奏法(肘から先――どころか、手の甲にのせたコインを落っことさずにショパンエチュードの一、二曲くらいは弾けるんじゃないかしらん)。パラパラっとしたタッチであっさりと端正に弾きすすめます。

それではさぞや味気なかろう、と思われるかもしれませんが、たとえばドビュッシーなど、少なくともヴェデルニコフほど無味無臭ではありません(蓋し、ヴェデルニコフの演奏にはジャズっ気が皆無なのです)。そりゃあ「匂いたつような色気」なんてものは求めても得られないかもしれませんが、けっこう機知にとんでいるし、ショパンのop.25-5の中間部など丁寧に歌っています。ショパンドビュッシーリゲティエチュードづくしというリサイタルを開くくらいだからかなりのテクニシャンには違いありませんが、ショパンのop.25-6をノーミスであっけらかんと弾いてのけたりするというほど小憎らしくはない(笑)。意外と良かったのがop.25-7の深みのある音色でした。

こんなに地味なピアニストを聴いたのも久しぶりだなあと思うくらい「華」のない人ですけど、誠実な人柄がにじみ出ていて、好感が持てます。ラヴェルとか弾いたら上手いんじゃないかなあ。