ヴィルサラーゼのラヴェル/左手のための協奏曲

某巨大動画サイトでヴィルサラーゼの弾くラヴェルの左手のための協奏曲を視聴したのですが、これがユーディナもビックリというハード路線でした。美感とかニュアンスとかいったたぐいのものが含まれる余地のまったくない、強靭な意志の塊そのものの重く武骨なタッチで、たとえていえば紙も破れよとばかり墨をたっぷり含んだ筆を叩きつけるさまが目に浮かぶような、そんなふうにしてピアノを弾きます。

このコンチェルトってこういう曲だったっけ、とおもってリヒテルの演奏(これも同サイトで聴くことができます)を聴いてみると、こちらでは、第二主題部などやわらかな表情で繊細にうたいあげられていて、弾いているのが西洋古典音楽であるからにはそうするのが二×二が四みたいに当然かつ自明なことと何とはなし思いこんでいたことにあらためて気付かされた次第なのですが、とにかく、ヴィルサラーゼはそういう場面でさえ聴き手にひと息つかせてくれるということがありません。それは難点といえば難点でしょうか――とはいえ、聴いているあいだはひたすら、蛇ににらまれた蛙のような心持でした。好き嫌いは別として、これほどスサマジイ聴体験もめったにありますまい。

アレクセーエフという若い指揮者の振るサンクト・ペテルブルグ・フィルは、この音ではあまりよく分からないというのが正直なところですが、少なくともトップ奏者の技量にはムラヴィンスキー時代のおもかげのようなものはほとんど感じられません。青年も精一杯重厚にやろうとしていますが、ヴィルサラーゼのピアノを前にしてはかすんでしまいましたね。