チェリビダッケとフランス国立放送管(五)

(まだまだ続く)

≪ロザムンデ≫序曲は豊かな陰影、彫りの深さにおいて際立ち、現に生きるシューベルトの力強さを感じさせるでしょう。柔らかな幻想味(たとえばコンツェルトハウスの奏でる弦楽五重奏曲のような)を求めるなら他の演奏を当たらなくてはならないでしょうが、完成度はきわめて高いです。

同曲異演としてはミラノRAI響盤(ARKADIA)、ミュンヘン・フィル盤(EMI)があります。前者は音質劣悪。解釈的にはORTF盤を少し青くした感じでしょうか。後者はチェリ様最後の演奏会のライヴ録音で、十人中八人はゆるくてかったるい演奏だと言いそうな気がします(実はわたしもそう思いかけていた)が、今回再聴して、穏やかな歌の流露に無辺際の幸福を味わいました。

チェリビダッケは小品を振るのが実に上手かった指揮者ですが、それも二、三分のなかに極大のスケールを現出せしむる構造把握の才においてきわだっています。この演奏会のアンコール四曲においてもそれは顕著でしょう。十八番のスラヴ舞曲やサーカス・ポルカは手抜きなしの叫びまくりで溌剌たる生気を発散しています。ミヨーの諧謔味、ラヴェルの濃密な情感は、これらの作品をチェリが全曲演奏してくれていたら、と思わせる出来です。

そういえば、ケーゲルの(一部で有名な)小品集に収録されている「サーカス・ポルカ」はチェリが振っているのと別な曲です。どっちのクレジット表記が間違っているのか、それとも同一タイトルで複数の曲が存在するのか、わたしは寡聞にして知りません。