どうせなら全曲ホルショフスキと……

シゲティはホルショフスキと組んでモーツァルトソナタ集を録音しています(VANGUARD CLASSICS)が、そのうちの二曲は特別参加で指揮者のセルが伴奏を務めています。

このセルのピアノ、世間では実に良い評判なのですが、わたしに言わせれば「臆面もない」の一語に尽きるシロモノです。

造形はきわめて明晰かつ端正、指さばきなど傍若無人一歩手前の痛快さ、たしかにこれは好きな人は好きかもなあとは思いますが、それにしても、含みやデリカシー、陰翳といった要素はやりきれなくなるくらいに欠落しています。ハスキルのフィリップス録音につけたマルケヴィチの棒みたいなものといえば話が早いでしょう。ホルショフスキのピアノがシゲティと長年組んでいるだけあってヴァイオリンと琴瑟相和した逸品であるだけにその感はいよいよ深く、セルにつられてシゲティのひたむきさがぎすぎすしたそっけなさに聞こえかねない危険があります。挙句の果てには技術の衰えまで強調され……

あ、ちなみにわたしは「音程の揺れさえもがいとおしい……」というクチのシゲティ・フェチです。

同じ指揮者のピアノということであればショルティの方がずっと感じが良いです(クーレンカンプとK454を共演しているのでシゲティ/セルと聴き比べることができます)。セルのピアノが「アメリカの音」だったら対するショルティは「ヨーロッパの響き」といったところでしょう。

とはいえショルティは、あの口の悪いチェリ様が絶賛(誉め殺しかも……)するくらいのピアノの名手だから比較する方がセルには酷な話なのですが。