何のかのと言って
先述の十枚組をわたしはけっこう良く聴きます。「最初のピアソラ」としては不適切としても、これでしか(現時点では)聴くことの出来ない音源が含まれていますし、何といっても値段が安いのだから、買って損ということはないと思います。
MEMBRANのライセンス盤なのだからもともとが寄せ集めなのは言うまでもありませんが、現時点で入手可能である以下のCDと内容が重複しています(もっとあるかもしれませんが)。
- トローバ原盤の『アディオス・ノニーノ』
- コンフント9のスタジオ録音
- 『ブエノスアイレスのマリア』のインストゥルメンタル・ナンバー
- 『われらの時代』より天使へのイントロダクション
- 「ピアソラの至宝」シリーズの『ロコへのバラード』
- 『リベルタンゴ』のリベルタンゴ
この中で悪質なのが前半の四つで、素性を隠蔽して他社の著作権が切れていない音源を勝手に使用しています。『アディオス・ノニーノ』はなんとアルバム丸一枚が盗用されており、コンフント9ものの一部は著しく音質が劣化。こういうのはさすがにどうかと思います……ちなみに後の二つはパガーニがライセンスを保持している「シロ」の音源です。
ただし、言い換えれば残りの音源は今のところこのCDでしか聴くことができない(たぶん)ものです。
- バルタールとの録音
- コンフント9のライヴ
- 第一次コンフント・エレクトロニコのライヴ
- 南西ドイツ放送響に客演した協奏曲及びプンタ・デル・エステ組曲自作自演
- 後期キンテートの一九八四年(?)ミラノ・ライヴ
- 『エンリコ四世』のサントラ
これまたブートものだらけですが……(笑)
バルタールの歌ものは特にいいですね。ピアソラ本人が「あのときは耳がおかしかったんだ」と言ったとしても、きれいな声とは言えないバルタールの妙に生々しい歌は青臭く一本調子のトレージェスとは歴然と格が違います。コンフント9の伴奏は実に聴き応えがありますし、イタリア時代の録音もこれまた結構。「みんなのビオレータ」にはしびれます。
それと個人的に好きなのがコンフント・エレクトロニコのライヴでして、「逃避」中間部のインプロ・リレーの反則技的すばらしさは正規録音の魅力をほとんど無化しかねません。マルビチーノのカッコエエ即興たるや、まだ見ぬブエノスアイレス八重奏団ではどんな凄まじいプレイが繰り広げられているんだろうかと涎がたれてきます。「シータ」や「アディオス・ノニーノ」で奮闘しているシュネイデルもいいなあ。
……こうやってつくづく考えると、十枚組は結構マニアックなコンテンツだなあと思います。これより先に聴くべきものがピアソラにはナンボでもあるわけで。