ギーゼキング

ギーゼキングブラームスといえばベルリン時代のチェリ様と第二協奏曲を共演して意気投合、終演後ジャズの連弾を楽しんだとかいう逸話が伝わるのですが、残念ながら録音は残っておりません。

というわけで協奏曲の一番を聴いてみました。オケはロスバウト指揮の南西ドイツ放送響、一九五三年の放送用スタジオ録音で、TAHRAの長細い四枚組CD(TAH 409/412)に収められてます。

ギーゼキングらしさは出てると思います。さらりとしてるけど必ずしも丁寧なわけではなく、無頓着というか無神経というかなフレージング……て少しもほめてないやん。

ええ、わたしギーゼキングあまり好きじゃないんですよ。アラウが「あんまり練習しなかった」と断じていますが、素人ですけど聴いててなんとなく分かります。和音の出し方がけっこう荒っぽかったり、盛り上げ方が結構場当たり的で音楽の構造が見えてくるようなものではなかったり……

これ聴いても印象はさほど変わりません。二楽章とかでも、もう少しこちらの耳を吸いつけてくれるようなものがないかなあ……と(要するにパソコンしながら聴いてるといつのまにか終わってる)。録音が随分艶消しで損している部分もあるとは思いますが。

カップリングのスクリャービン(作品十一の前奏曲集)の方がだいぶ面白い演奏でした。こちらには美しい瞬間が多々あり、第二曲のデリケートなタッチなど、こんな感じでブラームスの二楽章もやってくれたら良いのにと思わされます。一九五五年当時(西側ではホロヴィッツくらいしかスクリャービン弾きがいなかった頃ですね)この曲を弾くくらいですから随分思い入れはあったはずで、スクリャービンのこと好きなんだなあという感じは伝わってきます。

ただ、平明であやうい美しさに欠けるギーゼキングスクリャービンは、いわばアングルの裸婦像みたいなもんで、色気はありません。根がスケベなわたしには、ちょっと食い足りないものがあります。