ギーゼキング(続き)

前回は結構キツいなこと書きましたが、同じCDセットのドビュッシーラヴェル集を聴いて、このピアニストはけっこうムラっ気があるというか、聴き手にとっては評価が難しい人だなあと思いました。

一曲目のベルガマスク組曲。プレリュードはのっけからメトロノーム弾きでわたしならずともゲンナリすることこれ請け合い。リズムは鈍く、響きは繊細さに欠けます。月の光の中間部では濃密な音色に一瞬オッと思いますが、リズムがどうしようもなく死んでいる……

ところが同じ一九五三年十一月二十日のセッションだというのに、前奏曲集ではいつのまにか鼻息も荒く情熱的なギーゼキングがいます。実にスリリングな演奏で、あのベルガマスクと同じピアニストが弾いているとはまず思えないでしょう。ラヴェルの鏡(一九五〇年スタジオ録音)も鼻息系――と書くと道化師の朝の歌に期待が集まるかと思いますが、それに優るとも劣らず、悲しい鳥の濃密な音色と表情的なピアニシモ、洋上の小舟の豪快なダイナミズム、そして鐘の谷のしっとりとした情感がすばらしいです。

そんなギーゼキングの突然変異的名演がシューマンダヴィッド同盟舞曲集です(また続く)。