気を取り直して
ギーゼキングのシューマンですが、ダヴィッド同盟についですばらしいのが幻想曲でしょう。すでに書いた通り渦巻く情熱に圧倒されます。
イ短調協奏曲は、フルトヴェングラーとの共演が有名ですね。二楽章の第二主題で、ロマンのきわみ――の一語に尽きるフルトヴェングラー=ベルリン・フィルのねっとりと唸るような弦の歌にギーゼキングが果敢にも合わせようとしているのは驚きの聴きモノですが、これはさすがに相手が悪かったというかニンに合わなかったというか……正直なところ、同時期にフルトヴェングラーとこの曲で共演しているコルトーだったらどんなことになっていたのだろうか、という思いの方がわたしには強いです。
先日から何度もネタにしているTAHRA盤はシュレーダー指揮ヘッセン放送響との共演ですが、これは良い意味で過不足のない、実にすぐれた演奏でした。
しかし他の曲はというと少々食い足りない部分がありますでしょうか。交響的練習曲はきわめて美しいのですが聴いていてだんだん飽きが来ますし、クライスレリアーナは練習不足のツケが出すぎてしまったように思います。一部で世評高いピアノ・ソナタ第一番ですが、これも幻想曲などにおける忘我の没入と比較しては随分単調な演奏でした。
つくづく、ギーゼキングというピアニストは分かりにくいです。