チェリビダッケとフランス国立放送管(八)

以前取り上げたラ・ヴァルスの元ネタたるウインナ・ワルツをチェリビダッケは意外とよく振っています。ラヴェルは元来パロディーだから善き市民たる紳士淑女が踊るにはふさわしくない危険きわまる音楽になったのもむべなるかなですが、本家本元たる善男善女のための舞曲をチェリ様はどう料理したのでしょうか。

今回はフランス国立放送管絡みということで一九七三年十二月三十日のライヴを聴いてみます。ジルベスターコンサートの類でしょうか、前半が六曲のシュトラウス・ファミリーというプログラムでした(WORLD MUSIC EXPRESS, WME-S-CDR-1154/5)。

以下は第二部の演目でしょうか。

ミュンヘンデンマーク放送響との共演も聴くことのできる得意の≪こうもり≫が何といってもすばらしいです。ウィーン訛りなど薬にもしたくないといわんばかりの正攻法ですが、あくまで「チェリ様の」正攻法なので、小クライバーの倍くらいゆったりとしたテンポで奏でられる短調のメロディーは哀感の深さ、なまめかしさをきわめて、弦の音色の切々とした訴えたるや、多情多恨の一語に尽きます。快活な部分のリズム感の鋭さ、格調、躍動感ともども、チェリビダッケ壮年の華を今に伝える名演奏です。

他の曲も見事な棒で、これまた十八番のピツィカート・ポルカ瀟洒、覇気にあふれるトリッチ・トラッチ・ポルカ、等々聴き所に欠けません。

音質はこれまで触れてきた諸々のWME盤に比べるとややノイズが気になり、時々フォルテで音がびりついたりしますが音の鮮度はまずまずです。いつもの編集ミスは今回は少々控えめですかね。