フラカナパ

後期キンテートの定番ですな。ライヴ・イン・ウィーンの演奏で好きになりました。

オリジナル録音もそういえばあったなあと思って聴いてみたのが『ある街へのタンゴ』。

意外に感じたのはアレンジの大筋はそんなに変わっていなかったことです(ブエノスアイレスの夏なんか十年ごとに化けてるのに)。

その割に印象は随分違います。オリジナルはスタジオ録音なのでリズムがスタティック、というかライヴのイケイケの推進力を知ってしまった耳には少し物足りない。あんまり変わっていないようで確実に洗練度を高めているアレンジもあいまって、ライヴ・イン・ウィーンでは格段に複雑な曲を聴いているような気がします。たとえばピアノのソロにピアソラがつけている対旋律とか。

んではオリジナル盤は聴くに足らんかというとさにあらず。アレンジがシンプルな分素材の味が生きてます――というか、録音からしてマンシとアグリのソロにものすごいフォーカスがあたってまして、とにかく濃い。一分前後からのピアノの高音域の打ち込みも、ただ合いの手を入れているだけなのに、どうしようもなく切ない夜の匂いを漂わせています(ウィーン・ライヴの場合そもそも聴きとれやしない)。そしてソロ。こう言っちゃあ何ですがシーグレルのはむしろピアソラの「つけ」に耳がとられてしまってまるで印象に残らないというのに――リズムなんかむしろモッサリしているくらいなのに――どうしてマンシのピアノにはこんなに強烈な存在感があるんでしょうか。

そして一息ついたと思ったらアグリの濃厚なヴァイオリンが。ヴィオラを思わせる深い音色にはじまってヴィブラートの表現力がとにかく凄まじい。濃ゆいといえばスアレス=パスですがまた違った味です。聴き手にグイと迫ってきます(スアレス=パスは纏綿とまとわりつく感じと申しましょうか)。

まずは後期キンテートで聴けば十分かと思いますが、たとえば五重奏のためのコンチェルトのオリジナル録音を聴いたりして、前期キンテートってすげえ、と目覚めてしまったあなたには、オリジナル盤も是非是非、です。