ランドフスカはやっぱり凄かった

ランドフスカのヨーロッパ録音集を聴きました。考えてみればRCAのバッハものTESTAMENT盤などわたしの聴いたことがあるランドフスカは渡米以降の録音ばかりで、このセットも戴冠式くらいしか聴いたことがありません。

ランドフスカにはこれまで微妙なもどかしさを感じていたのですが、今回最初期にあたる一九二八年録音を聴いて驚愕しました。想像だにしなかったすばらしさなのです。

ランドフスカ四十代の演奏ですが、タッチが軽い。繊細でいて生気にあふれています。三十年代の録音も、テクニックが崩れているというほどではないのですが、心持ち、タッチが重くなってしまっていることは否めません。

考えてみればランドフスカ・モデルのクラヴサンはとんでもなく演奏しにくい楽器だそうで、何しろモダン・ピアノと比較して数層倍キー・アクションが重いとか。こういうことを書くのはちと気が引けるのですが、五十代の女性であるということがフィジカルなハンディになるとしてもおかしくはありません。蓋し二十年代がランドフスカの最盛期だったのです。トルストイブゾーニを驚倒せしめたのは、このような演奏だったのでしょう。

(そういえばカザルスのときも同じような体験をしました。はじめて聴いたカザルスは無伴奏だったのですが、人がいうほど凄いものだとは感じられず、こんなもんかいなと思ってもうたものです。しかるにカザルス・トリオでの名演や三十年代以前の小品集を聴いたら、まったくの別物。みんなが熱狂したカザルスはこの神がかったカザルスだったのです。無伴奏も、全盛期のイメージを頭に置いて脳内補正しながら聴いてはじめて真価のあらわれるものではないでしょうか……)