牛肉(ヒツジの尻尾つき)

(承前)

モーツァルトのピアノ協奏曲第二〇番は一九四八年録音で、ゴルチャコフ指揮ソヴィエト国立放送響との共演です。これも強烈に個性的で、無菌室育ちのモーツァルティアンには猛毒以外の何物でもない――かもしれない録音ですが、好き嫌いで云えばわたしは大好きですねえ。

このピアニストならではの雄渾にして決然たる音の運びもさることながら、わたしにとって印象的だったのはその弱音の異様なまでの表現力、凄絶な美です。すぐそこに横たわっている内面の深い闇。それはモーツァルトのものともユーディナのものともつかず――これほど、味の濃いニ短調協奏曲はちょっと思い浮かびません。

けっこうオケも聴き応えがあります。ゴルチャコフはこのレコードでしか聴いたことのない指揮者ですが、古風にして重厚な当時のロシアのオケならではの響き(特に木管)が味わい深く、おおらかに歌わせつつギリギリのところでダルくならない手綱さばきも決して悪くないです。

……さてニ短調を聴き直した流れでそのままイ長調に突入したところです。

いま聴くと、時々どうにかしてくれよと云いたくなるくらいセンスの悪いガウクの指揮(ヴォルコフがショスタコーヴィチの口を借りて痛罵するのも分かるような……)などどこ吹く風で疾走するユーディナのピアノに「迷い」が全く感じられないことにはっきりと爽快さを感じている自分に気がつきました。

わたしの耳なんてこんなもんです。