マーラーを超えた漢、ゴロワノフ
ゴロワノフのシェヘラザードといえば、オイストラフです。
コンマスのヴァイオリン独奏がどうしてもお気に召さなんだゴロワノフが「オイストラフを呼べ!」と無理難題を云ったとか。
マーラーが第八交響曲の初演に際して義弟のロゼーにコンマスを任せようと思って呼んだときはミュンヘンのオケに総スカンを食らったとか云いますが、マーラーにも押し通せなかった横車を押し通すとはタダモノではないぞゴロワノフ。
――んが、何かが足りない。
例によって充分すぎるくらい濃厚であるにもかかわらず、どことなくのんびりして聴こえるのです。ブラスの炸裂っぷりが少々大人しいし、ここぞというところで音を腹の底から出していない憾みがあります。終楽章の六分前後からの過激なアッチェレランドなどいかにもゴロチックな仕掛けなのですが、クライマックスの音があれ?と思うくらい軽いです。思うにコンマスいじめに腹を立てたオケが面従腹背を決め込んでいるのでは――といいたくもなるくらい、いつものモスクワ放送響との共演における指揮者とオケのアツい一体感がここでは感じられません(ものの本によれば、ゴロワノフはその後このボリショイのポストに就いたらしいです。なんと因果な……)。
チェリと比べてるだけじゃないの、と云われたら否定はしませんが、たとえば展覧会の絵におけるような、ちょっとしたことなどどーでもよくなる突き抜けた快感がここには見出せないとは云えそうです。
オイストラフの独奏は、引っ張り出された経緯も経緯、とあってか、借りてきた猫のように大人しく、美人だけどこのひと色気がないよなあ、といった具合なヴァイオリンでした。