マンシ

コンフント9といえばタランティーノ、というくらいその印象は圧倒的で、勢い前任者のマンシの影が薄くなった気味がありますが、一枚目のアルバムを聴いて、わたしはあらためてこのピアニストの魅力に酔いしれる思いでした。

マンシは、蓋しピアソラ楽団のピアニスト中でもっとも無頼の匂いを色濃く漂わせたミュージシャンで、その点ゴジェネチェの歌にも通じる要素があったように思います。実生活のボヘミアンぶりということであればタランティーノも負けていませんし、彼のプレイの背後にそのような「物語」を読み取る向きもあるみたいですが、個人的には、タランティーノの才能はいわばモーツァルトのそれのように純粋なもので、酒や女やドラッグやは彼の演奏を損なってこそいないにせよ薬になっているわけでもないと思われてなりません。モーツァルトの楽才とスカトロジーの間に縁もゆかりもないことと同断です。

ただしマンシのマンシたる所以はその哀しみを声高に語らず、ぐっと噛みしめて、それでいて背中から滲み出るようなものがあるところです。言葉のもっとも正しい意味におけるダンディズムに横溢したそのピアニズムを心行くまで堪能させてくれるのが、たとえば≪スム≫のような曲でしょう。タランティーノがピアノを弾いたライヴ録音と比較しても、この武骨なまでに力強く聴く者に迫ってくるものがあるマンシのプレイにわたしはより心打たれるものを感じます。キンテートでは、先にフラカナパも挙げましたが、やはり五重奏のためのコンチェルトが圧巻。シーグレルの演奏が悪いわけではないのですが、この訴えの強さ、しびれるようなカッコよさを前にしては分が悪いと思わずにはいられません(ひとは皆オリジナル録音のティラオを賞賛しますがわたしにとってはこれはむしろマンシを聴くためのレコーディングです)。