再度フランク

弦楽四重奏だけをとれば、個人的にいちばん好きな演奏はブイヨン四重奏団かもしれません。秘めたる情熱がジワリと燃えさかっていて、時折体の奥底から肌まで突き上げそうになる、そんな演奏。熱い緊張感が全体を一貫しています。これはグっと来ますねえ。一九四〇年代に至ってようやく、コルトーやカペーが捕われていたフシのある「フランク解釈のタブー」から自由に演奏することができるようになったのかなあなどとも思ったりします。

しかるに、です。こんなにすばらしい音楽を弦楽四重奏がやっているのに、その熱がピアノのデカーヴにはまるで伝わっていないのです。これほど無味乾燥、無感動な演奏も珍しいというもの。音楽は感情の表現以外の何物でもない、といったのはエネスコでしたっけ。その論に従えばこんなんは音楽じゃありませんし、少なくとも、フランクではありえません。

このピアノがナットであれば――と思わずにはいられません。というのも第一ヴァイオリンのブイヨンはナットと高名なデュオを組んでいたのですから。シカノミナラズナットはベルナール・ガヴォティ云うところの「フランクの三使徒」のひとり(ほかの二人はコルトーとブランシュ・セルヴァ)でもあります。この名手にしてフランク録音が交響的変奏曲の一曲のみというのはいかにも惜しい話です。これまた所属レーベルの壁に阻まれたかたちの夢のレコードでしょう(コルトーとブイヨンがHMV、カペーとナットはコロンビア所属のアーティストでした)。

そう考えると実演同様にレコーディングでも共演することのできたティボーとコルトーと、それにカザルスは幸福な例外だったのかもしれません。カール・フレッシュとシュナーベル、クーレンカンプとフィッシャー、セーケイとバルトーク――録音を遺すことができなかったSP時代の名デュオというだけで直ちに以上の名が思い浮かびます。忌憚なく申し上げて、以上のどれかひと組の録音を聴くことができるというのであれば、クライスラーラフマニノフの共演録音全てを擲っても惜しいとは思いません。