ディーン・ディクソン

あれだけでこんな指揮者かと思われてもかわいそうなので、ディーン・ディクソンの録音を聴いてみました。うちにあるのは合わせ物のみで、

N響を含めて各地の放送オケに呼ばれているあたり、たしかな地力を蓄えた中堅指揮者だったのでしょう。

前者は一九六一年のライヴ。今回久しぶりに聴き返しました(レーベルは昔なつかしい伊ORIGINALS)。

そして、どうして「久しぶり」になったか、聴いていてはっきりと思い出しました。悪くないけど特別に良くもないのです。フェラスのヴァイオリンは良く歌いますが少し締まりに欠けますし、ディクソンの伴奏も、コンドラシンさながらの切れ味、という風には行かないようです。録音の具合かもしれないですが、響きに立体感がありませんし、あまり複雑な棒さばきは得意としていないように思われます(リズム感覚も、どうやらもともとそんなに鋭い方ではないらしい)。

この曲は、シゲティや一九六〇年以前のオイストラフ、カガン、等々とすぐれた演奏には事欠かないので、フェラス/ディクソン盤は勢い影が薄くなるのも致し方ないところです(チェリ様がオケを振ってるのもあったっけ、そういえば)。

後者も、ハスキルの第四ということであれば他にも色々演奏があるので、滅多に聴いてこなかったもの(レーベルはTAHRA)。

録音にあまり響きが入っていないこともあってか、ピアノとオケが絡むような場面では後者があまりにも線が細く、頼りなく聴こえます。これでこの指揮者を分かったという気にはなれませんが、伸びやかな呼吸感と晴朗な押し出しの良さがあって、それでいてけっこうデリカシーも感じられるし、きっといい指揮者だったんだろうなと思わせるものがあります。

今回は、残念ながら、サン=サーンスの二楽章の、あの惻々たる悲哀が一回限りの奇跡ではなかったことを証するような何かは、わたしの聴いた限りでは感じられませんでした。いっぺんピンで聴いてみたいものです。