ドイツ本流といっても色々で

むかしからLPマニアの間で評価が高かったらしいラインホルト・バルヒェットの録音が最近デンオンからCD復刻されました。再評価の気運が高まりつつあるということでしょうか。今回わたしが聴いたのはバッハの協奏曲です。共演はティーレガントという初耳の指揮者と南西ドイツ室内管。

伸びやかで美しい音色のヴァイオリンです。神経質なところがないのがいいですね。あまりヴィブラートをかけていないわりにふくよかな響きで、クセのない素直な美人を連想させます。

しかし、その大らかさには「良くも悪くも」というところがあって、フレージングにちと締まりがありません。一音一音がのっぺりと均質的に弾かれているためメロディーが平板に感じられることと、ボウイングの問題でしょうか、少し音の込み入った部分やフレーズの結尾が雑に聞こえるのが残念です。ことに第二番は名演奏が多いので、どうしてもバルヒェットは聴き劣りします。

あとから、アドルフ・ブッシュの弾き振り録音で口直ししました。一九四一年だか二年の演奏で、ARCHIPEL からCDが復刻されています。ブッシュの心臓発作後の記録にあたり、第一番はやつれを感じさせるのですが、第二番はまず最高の出来と云ってよいでしょう。

バルヒェットはブッシュ亡きあとのドイツ楽派の有望選手であったと伝えられますが、ふたりの共通点はわたしの見るところせいぜいヴィブラートを控えたその音色程度に留まり、ブッシュの隅々まで目配りが行き届いたフレージングと格調の高さは、蓋しバルヒェットからもっとも遠いところに位置するものです。ことにすばらしいのは二楽章の崇高なカンティレーナで、ブッシュの偉大な音楽家魂のもっとも醇乎たる発露がそこにはあります。

ぬるま湯のようなバルヒェットのあとで聴くとことさらにその引き締まった緊張感が快かったです。