メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲

といえばイザイ、イザイといえばメンコンです。フィナーレだけの抜粋であろうが、録音(一九一二年のアコースティック吹込)が古かろうが、これ以上の演奏は考えられないんだから仕方がない。レコーディングに対して懐疑的であった巨匠自身も「こんなに上手く弾けているとは思わなんだ」と大いに満足したと伝えられる幸福なレコードでもあります。

この演奏の天下無双たる所以は、演奏が平然と曲の器を超えてしまっているところにあるでしょう。生命の奔流さながらに強烈にして変幻自在のリズム、尋常ならぬ疾走感、それでいて途方もなく大きなスケール――それは紛れもなくイザイという一代のヴィルトゥオーゾの巨人ぶりであって、実のところここまでのレヴェルに達すると弾いているのがメンデルスゾーンであろうがドリゴのセレナーデであろうが関係なくなります。

これが「模範的」なメンデルスゾーン解釈だとは口が割けても云えない――かもしれませんが、イザイの創造的な天才がメンデルスゾーンの程度を遥かに凌駕しているのだから聴く者はただただ圧倒されるに越したことはありません。クライスラーであれシゲティであれ、「メンデルスゾーン」をやっている限りイザイの足元に及ぶべくもないのです(CD復刻はSYMPOSIUM等)。

メンデルスゾーンを弾いてイザイの高みに伍するかと思われる数少ない演奏のひとつが、エネスコの、これまた二楽章のみの断章です。エネスコの高朗たるカンティレーナの最上の一例と云うべきで、切々と歌いあげた情感は豊饒の極み、さながらフルトヴェングラーの濃艶とクレンペラーの底しれぬ深遠を足して二で割ったかのようなすばらしさです。

復刻CDはオーパス蔵から出ていますが、どちらかというと昔馴染みのWING盤のほうがキンキンしていなくて聴きやすい音質でした(同じことはシューマンソナタ第二番についても当てはまります)。