ミトロプーロスのバッハ

ブランデンブルク協奏曲第五番の珍品としてはミトロプーロスの弾き振りなんてものもあります(DISCANTUS)。あの、プロコフィエフの第三協奏曲の弾き振りが名物だったムチャな火星人。オケはNBC響で、ソリストの名を詳らかにしませんが、オケの奏者と見てまず間違いないでしょう。

妙な活気にあふれた、いつものミトロプーロスです。ヴァイオリンはアメリカ風のぎらついたヴィブラート、フルート奏者もソノリティーが荒れ気味で、残念ながら耳のご馳走というには遠いでしょう。十八世紀のギャラントリーにかわってここには音の威力があります。威力しかないのが残念。

しかし、これは意外とみるべきか、はたまた――カデンツァがかなり悲惨なのです。

細かい音符の走句に指が追いつきませんし、あせりからでしょうか、あの暗譜魔人の記憶が一瞬スリップしたのにはドキっとさせられます。止まりかけたり、拍の頭をやたら強調するリズムの取り方も素人くさい――といったらさすがに可哀想でしょうか。そもそもがなまじの腕では歯が立たない曲なのです(実は、先にこれを聴いてしまったので例のプロコフィエフの三番にあまり期待が持てず、聴かないままでいます)。

二楽章がドロリと濃厚なのがこれまたミト。昼ドラ風の深刻っぷりと申し上げましょうか。そもそもアフェットゥオーソという指示ほどミトロプーロスからかけ離れた言葉も珍しいでしょう(笑)。

このブランデンブルクに輪をかけてスサマジイことになっているのが指揮者自編の「ト短調の幻想曲とフーガ」で、わたしがもっぱらリスト編のピアノ版で馴染んでいるためもあるでしょうが、ド派手な音色の狂乱っぷりにまず度肝を抜かれます。うーん強烈な違和感。フーガに入って少し持ち直したかと思いましたが、最後は荘重……にやっているつもりなのでしょうが、ズンドコ節になってました。