前衛――それは漢のロマン

シェーンベルクの音楽は余程のことがないと聴きませんが、たまに思い出したように取り出してみる演奏があります。シュトイアーマンとシェルヘンが共演したピアノ協奏曲のライヴ録音です(ヘッセン放送響、一九五四年)。

シェルヘンといえばもっとも熱烈な同時代音楽の使徒のひとりであり、シュトイアーマンは、ご存知の通り、この曲の初演者でした。この演奏は、まさしく「前衛音楽第一世代」といっても過言ではないふたりの気迫と情熱がドロドロのマグマのように熱く燃えさかるテンションの高さで聴き手を圧倒します。若い頃はパイプ椅子を振りかざしてハンスリックの亜流と場外乱闘のひとつもしてそうな不良老人たちが、今なお衰えることを知らない血のたぎりを思い切りぶつけた、とでも云うような、渾身の力演です。これほど「闘魂」とか「漢のロマン」とかいった形容がピッタリなシェーンベルクを、わたしは聴いたことがありません。シュトイアーマンの弟子筋にあたるブレンデルとギーレンのコンビなど、彼らと比べては第一世代の劣化コピーでしかありません(いってみれば佐田啓二中井貴一みたいなもの)。

最後になりますがこれはARKADIAから出ていたCDで、ポール・ジェイコブスとヴォルフガング・マルシュナーというマニア感涙モノのシブい独奏者を擁したベルクの室内協奏曲等とカップリングされています。