シンプル・シンフォニー

ブリテンは作曲家として有能であるのに優るとも劣らずすばらしい指揮者であり、ピアニストでした。「自作自演必ずしも最良ならず」とは(たとえばストラヴィンスキーヒンデミットなど)良く云われることですが、ことブリテンに関しては自身による演奏が今に至るまで極め付きとして通っています。

シンプル・シンフォニーも無論のこと自作自演(DECCA)が遺されていますが、ここはひとつ、カール・リステンパルト指揮ザール室内管の演奏(ACCORD)と聴き比べてみたいと思います。

リステンパルトは一見地味な演奏家ですが、その冴え冴えとした音感と格調高い佇まいは他に替え難いもので、フレージングとリズムの処理は精妙をきわめ、響きの隅々に至るまで細かい神経が通っています。ブリテン盤と比較して可成絞り込まれた編成もあいまって、透明感あふれるテクスチュアの扱いにおいて際立った演奏です。

実はブリテンの演奏は、リステンパルト盤のあとに聴くとやや雑然として感じられる部分を含んでいます。たとえば一楽章の中間部(この辺はリステンパルトが専業指揮者の意地を示したものとみなすべきでしょう)。

しかし後半楽章は断固自作自演を採りたくなります――前半楽章ではやや重たく響いた編成の厚みがここに来て俄然利いているのです。三楽章に明らかな、単に情感の豊かさというだけでは何も云っていないに等しい異様に感じやすい心はまさに指揮者ブリテンならではのものですし、フィナーレの気迫と燃え立つ炎は、「器なり」ととらえられがちな音楽の内実を表現してあますところありません。