ポルトガル狂詩曲

エルネスト・アルフテルのポルトガル狂詩曲を、ポルトガルの名指揮者フレイタス・ブランコ夫妻の共演(PORTUGALSOM、オケはポルトガル国立響)で聴きました。アルフテルのことをこの曲でしか知らないもので、てっきりこの演奏は「お国物」かとばかり思っていたのですが、実際はこの作曲家、スペインの産だとか(この曲は、スペイン内戦後ポルトガルに滞在していた時期の作品です)――だとすればルーマニア民族舞曲をチェリビダッケが振っているようなものでしょうか(笑)。

アルフテルはファリャの愛弟子で概ねその延長線上にある新古典主義的作風かと思いますが、伸びやかな叙情性と色彩感のある情熱的表現が上品にまとめあげられており、その師の音楽のいくらかの晦渋と土着的な粘っこさが必ずしも得意ではないわたしには、また違った個性として、むしろ好ましく思われもします。約十五分という手頃な尺の作品ですが、繊細な憂愁から熱気に溢れたクライマックスまで起伏に富み、聴かせどころも多く、聴けば聴くほどよく書けている曲だなあと感心します。

ブランコ夫妻の演奏ぶりは曲が手の内に入った堂々たるもので、特にブランコ夫人はこの曲の初演の際の独奏者でもあります(レパートリー中にラヴェルの左手もおさめていたと云えばひとかどのピアニストであったと知れましょう)。反応の良さを感じさせる力強いタッチとリズム感の良さが何といっても印象的ですが、デリケートな部分、たとえば[12:33〜]の陰翳ゆたかな歌わせ方なども、ほのかな甘美さがあって結構なものです。
タクトを取る夫君はぬくもりを感じさせるセンシュアルな響きと情熱的な盛り上げ上手で知られた名人で、[8:30〜]からの昂揚はことにすばらしく、目蓋の裏に壮麗な風景が広がるような喚起力の強い響きにはどこか(サティの言葉を借りれば)「午前十一時四十五分過ぎの海」を思わせるものがあります。全体に、琴瑟和した一体感のある演奏であったのは夫婦だけのことはあるというものでしょうか。

じつはわたしのこの曲の処女聴は今回のポルトガル勢による演奏ではなく、マルグリット・ロンとミュンシュのフランス初演組による七十八回転録音(CASCAVELLE)でした。こちらを改めて聴きなおすと、ロンのタッチの玲瓏たる美しさはブランコ夫人とはまた違った格別のものですが、ミュンシュの棒が巧言令色鮮仁で、いくらライヴとスタジオ録音の違いがあるといっても、わたしには到底採れません。