コルトーの初出録音(一)

遅ればせながら、コルトー/メンゲルベルク/パリ放送大管弦楽団によるショパンの第二協奏曲(MALIBRAN)を聴きました。これまで聴くことのできたコルトーのライヴ録音でもっとも古いものは一九四七年のベートーヴェンの第一協奏曲でしたが、今回の録音は一九四四年とそれよりさらに遡って、六十六歳のコルトーを聴くことができます。

コルトーは一九三五年にバルビローリと組んでこの曲をスタジオ録音していますが、解釈に大きな違いはなく、同時期に録音されたショパンエチュードやプレリュード(1942)に顕著であった戦時下の暗い心境を窺わせる翳りもあまり感じられません――ショパンの若書きの曲が、華やかで確かな芸によって料理されています。

愛好家にとって興味深いのは、戦後の演奏でお馴染みの左手ガツンが早くもこの頃から惜しみなく撒き散らされていたことでしょう(笑)。たとえばフィナーレの[1:03]では楽譜に書かれた音の下を明らかに意図して叩いており、原典主義者はさぞや眉をひそめることでしょうが、大オーケストラのグランカッサもかくやというその迫力には有無をいわさぬものがあります。

これ、きっと当時のレコーディング・スタジオではやりたくても止められてたんでしょうね(仮に音をとらえることができたとしても、民生蓄音機ではそれを再現することができなかったのではないかと)。まさに実演ならではの醍醐味であり、凡百のフランス人ピアニストの繊弱ぶりとは一線を画したコルトーの豪胆さをわたしは心から愛します。

ただ、残念ながらこの演奏は二楽章が少しばかり聴き劣りします。完璧な演出プランのもとに成し遂げられた一篇の劇詩を思わせるスタジオ録音と比べると、デリカシーが求められる部分でオケがうるさくでしゃばるのが興醒め。特に再帰部のチェロ独奏は、はっきりいって目障りです(これは指揮者の解釈でしょうか、はたまたマイクのセッティングの問題なのかしらん)。

(ちと長くなったので続きは後日……)