コルトーの未発表録音

最近ふしぎとコルトーづいてまして、完全初出のショパンの協奏曲を聴くことができたと思ったら、某巨大動画サイトにとんでもないものがありました。

コルトーの」シューマンのピアノ・ソナタ第二番、です。

Malik氏のディスコグラフィー(残念ながら、今となってはあまり正確だとはいえなくなりましたが)にも掲載されているし、聴いたことがあるという羨ましい知り合いがいるし、で録音の存在自体は知識として心得ていたこのシューマンですが、まさかこういうかたちでお目にかかれようとは思うだにしませんでした。長生きはしてみるもんです。*1

コルトーの」とカギカッコでくくったのは、アトリビューションに若干の疑問が残っているとされるから。ですがマリク氏は"sounds authentic"としていますし、わたしが聴いた感じでも、十中八、九コルトーで間違いないと思います。*2

上記ディスコグラフィーによれば一九五四年に録音されたというこの演奏ですが、最初に聴いた印象は、率直にいって、もぉメロメロなんてもんじゃねえなコリャ、というものでした。特に第一楽章。「できる限り速く」と指定されたこの楽章はたいてい五分半前後で弾かれますが、驚くなかれ、コルトーはムリョ七分半強を費やしているのです。もう、ここまでゆっくりだと、同じ曲を聴いているような気がしません(笑)。

そもそもこのソナタは「学生がよく弾く曲」で、テクニカルな要求はひじょうに高い一方、勝負は腕っ節と根性次第、というところがあって、「解釈の大家」コルトーならではの強みが生きてくるような音楽ではないような気がします(エコル・ノルマルで録音された『コルトーのマスタークラス』でこの曲の第二楽章が取り上げられていましたが、曰く「これは表情をつけて弾くような曲ではない」と)。同曲の正規録音は存在しませんが、同じシューマンでも謝肉祭や交響的練習曲と比べて取り上げられる頻度はあまり高くなかったのではないでしょうか……

ですが、二度三度と聴いているとだんだん印象が違ってきます。(続きは後日)

*1:例によって直リンクは張りませんが、それらしいキーワードを入れると簡単に見つかると思います。

*2:不思議なのは、鈴木智博氏の「コルトーのレコード録音」において、同様に偽演の可能性を含むマズルカ全集へのコメントはされているのに、この演奏について言及がないこと。