訂正
レコードのマトリクス番号について認識に不十分なところがありましたので謹んで訂正いたします――というのは、マトリクス番号は各セッションごとに連続的に割り振られる原盤の通し番号だとばかり思っていましたが、ビクターでは、同じコルトーが同じ曲を弾いているかぎり、新たなマトリクス番号が割り振られることなくひとつの番号で管理されていたらしいのです。*1
たとえばタランテラの場合、ビクター・アコースティックだけで三種のレコードがあるのですが、初出盤とマトリクス番号は以下の通りです。
録音年月日 | 初出盤 | マトリクス番号 |
11/1/1919 | HMV DA 1213 | B 22504 take 3 |
29/1/1920 | Victor 64910 | B 22504 take 8 |
27/2/1923 | Victor 64910 | B 22504 take 10 |
要は "B 22504" というマトリクス番号が三回のセッションを通じて引き継がれていったわけで、テイク・ナンバーもまたしかり。一度のセッションで十回も録リ直しをしていたわけではなく、四年間を通して十回、だったのです。
こうなるとどうしてこの曲を三回もレコーディングしたのかが謎です。二つめと三つめの初出盤が同じ Victor 64910 というのも不可解。
これはあくまでわたしの憶測ですが、
- コルトーがOKを出したのは一九二〇年の八番目のテイク。
- 手違いか何かでHMVでは三番目のテイクがレコード化される。
- 前者の原盤が摩滅したので、三年後にあらためてレコーディングをし、型番はそのままでリリース。
という風に考えるのがいちばん無理がないでしょうか……
しかし、型が潰れるくらいタランテラのレコードがよく売れたとも思えませんし、それを云ったら、ハイフェッツのツィゴイネルワイゼンのアコースティック録音みたいな正真正銘の大ベストセラーはSP期を通じてカタログ落ちすることなく、再録音と並んで堂々と販売されていたといいます――どうもややこしい限りです。