コルトーの新譜:一九五七年スタジオ録音のショパン

ぼちぼちと、思い出したようにリリースされるコルトーの未発表録音ですが、今回は意外なところから意外なものが出ました。レーベルは「名演奏家ライヴCD-R」大手(?)で、これまでは専らオケ物のライヴ録音を復刻してきたWORLD MUSIC EXPRESS*1、曲目は、一九五七年にスタジオ録音されたというショパンのバラードとプレリュード(いずれも全曲)です。

例によってディスコグラフィーと照合しますと、Hunt版には該当する記述が見当たりませんが、Malik版に"Extant unpublished recordings"として両曲の一九五七年録音が掲げられています。これが今回CD-Rに収録された演奏でしょうか(ハント版で言及されていない録音の例としては、シューマンのピアノ・ソナタ第二番もそうですね)。

一九五七年というとコルトーは当年とって八十歳、翌年は引退してしまうという演奏活動の最後期にあたります。同時期の録音としてはショパンのプレリュードの一九五五年ミュンヘン・ライヴやカザルスと共演したベートーヴェンの一九五八年ライヴを聴くことができますが、特にバラードは戦前の演奏しかなかったため、歓迎すべき追加です。

ただし、当盤には「ラスト・レコーディング」と銘打たれているのですが、これはちと眉唾。あくまで「現在聴くことができるコルトーの独奏録音中もっとも後年の演奏」です。

一通り聴いたところ、両曲ともたしかに最晩年のコルトーの特徴を有していますし、プレリュードは前述したミュンヘン・ライヴと別の演奏でした。蓋し正真正銘の未発表録音です。

うれしいことに音質も決して悪くはありません。プレリュードの前半に僅かなデジタル・ノイズあり、とインフォメーションにはありましたが、わたしはほとんど気になりませんでした(チェリ様のORTFライヴはこんなもんじゃなかった……)。レコードの針音とおぼしきプチプチ・ノイズが乗っているので板起こしでしょうか――ただしバラードに比べてプレリュードの録音は響きが曇りがちで、しかも曲によってバラツキがあるのはこれいかに。

(※)……わたしは今回カデンツァさんにお世話になりました。某ア○アCDさんと違って会員にならなくても買い物できるのが助かります。地方在住者がおのぼりさんしないでもこういうマニアックなアイテムを入手できるとは便利な世の中になったものですね。

*1:わたしはチェリビダッケのフランス国立放送管ライヴで結構お世話になりました。