ベートーヴェン・マター
(前回の続きのようなそうでないような……)
さて、カデンツァさんのCD紹介にちょっと見過ごしならないことが書かれていました。すなわち、コルトーがベートーヴェンのピアノ・ソナタを録音していたというのは弟子の思い違いで、どうやら実際はレコーディングをしていないらしい、というのです。
仔細はここの下の方をお読みいただくとして、たしか十数年前、コルトーのベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集をテスタメントが復刻するという噂がありました。その後、この話にペライアが一枚噛んでCDはソニーから出ることになった、という風に話は二転三転、結局のところ実際にリリースされたのは『コルトーのマスタークラス』だったという次第。
カデンツァさんによると、弟子のトーマス・マンズハートは、このマスタークラスの音源をベートーヴェンのソナタの録音と取り違いしていたのだとか。
しかしながら、仮にHunt版のベートーヴェンのソナタに関する記載もマンズハートの錯覚に基づいたものだったとすれば、セッションの年月日、そのたびに取り上げられた曲目などの情報がいくらなんでも具体的にすぎる、と感じるのはわたしだけでしょうか。HMVの台帳を参照でもしなければ到底この仕事はできないと思います。
ただの悪あがきかもしれませんが、三十一曲のソナタは録音された、と信じたいです。
(ちなみに、『マスタークラス』をリリースする経緯について触れたペライアの文章にはマンズハートのマの字もでてきません。この音源の存在を彼に知らしめたのはコルトーの息子のジャンであり、音源はそれを録音したピエール・トゥーズリ氏が保管していたとのこと)