中年の夢いまいづこ

昨年末N響の定期公演にアラベラ・美歩・シュタインバッハーが登場してチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を弾きました。各所での評判がけっこう良いので、録っておいたビデオをたのしみに視聴したのですが――エルマン命のアナクロ野郎のいうことと思って割り引いて読んでもらうとして――美感に乏しい音色と、ややもすれば機械的になる含みのないフレージングにがっかりしました。

ヴァイオリンという楽器がそもそもひとりの妙なる美女です(いぶかしく思われる方には、背中にf字孔をうがたれたモンパルナスのキキの後姿を想起していただきたく――)から、これを女性が弾くと、えてして本妻と愛人のいがみあいみたいにギスギスしてしまうのです。ティボーやクライスラーのように、さながらヴァイオリンを愛撫するがごとし……とはなかなか参りません。

一般論として、オトコという生き物には、キレイなおねーちゃんが演奏していると実際より三割増しで良く聞こえるという傾向があります――たしかに、ピアノであれヴァイオリンであれ、美人が楽器を弾いている姿というのはただそれだけで絵になりますし、感覚に甘くやさしく訴えるものがあるからでしょう。畢竟わたしも例外ではなく、自戒の念をこめてその現象を仮に、グ○モー・エフェクトと呼んでいます(笑)

しかしながら、田舎にひきこもってコルトーだのチェリビダッケだのといったおっさんのレコードばかり聴いているせいか、はたまた――これは個人的な昔話になってしまうのですけど――楽器を弾く女ともだちに「あんなののどこがいいのッ!!」と、嫉妬だか何なんだか良く分からない精神攻撃をしょっちゅう受けていたからか、最近その方面にちと不感症気味でして、それはそれで何となく索漠としたものがあります。アレは迷妄でしかないかもしれませんが、それにしても甘美な迷いではありました……(^^;