ルガノのチェリビダッケ

ずいぶん以前のことですが、チェリビダッケがスイス・イタリア語放送管を指揮した映像(cf.→HMV)がリリースされました。一九七五年のライヴで、曲目は古典交響曲マ・メール・ロワベートーヴェンの第七交響曲、というチェリ様の十八番揃い。

画像の揺れや音声が(七十年代も半ばだというのに)モノラルなのはともかくとして、商品を開封するまでちょっと気付きにくい点がひとつあります――すなわち、管弦楽の編成が室内オケなみに小さいことです(コントラバスがふたり)。編成が薄いことそれ自体に問題があるというのじゃあありませんが、このオケの場合、ドイツの放送オケ等と比較して団員ひとりひとりの演奏力に遜色があるため、小編成だとそのアラがもろに出てしまっているのです。*1とくに前半二曲は後年の精緻をきわめた同曲異演とくらべるといかにも分が悪いことは否めないでしょう。ただしベートーヴェンの場合、オリジナルの演奏形態もコレに毛が生えた程度だったためか、上記の問題はほとんど気になりません。フランス国立放送管を指揮した同時期のライヴ録音に通じる熱演です。

小編成のうすっぺらいベートーヴェンなんか聴きたくない、という方はけっこうおられるかと思いますし、わたしも願い下げしたいクチですが、問題は編成じゃなく、指揮者次第なのだということがこの演奏を聴くとよく分かります。誰とは申し上げませんが、奴らが仮に大編成のオーケストラを指揮したとしても、音楽の本質が薄っぺらいんではそれを隠蔽することなどできますまい。

何はともあれ、脂の乗りきったチェリビダッケの躍動的な指揮姿を見ているだけで些細なことは気にならなくなり、魂を奪われたように目がくぎ付けになってしまいます。ほんの五年後のシェヘラザードの映像では身振りも著しく抑制的なものとなっていましたが、ここでは、もぉオトコの色気ダダ漏れ状態。いまさらのようですが、チェリ様はラテンの官能の人だったんだなあ、と改めて思い知らされます。

さて、七十年代もしくはそれ以前のチェリビダッケを聴いた方であれば、「パチン!」という、あの何かをひっぱたいたような鋭い響きにもお馴染みのことでしょう。アレは何を叩いているのか、わたしも昔から気になって仕方なかったのですが、今回このような映像が出て、それを確認できる千載一遇のチャンスと思い、目を皿のようにして全編を見通しました(ある意味、そのためにこのDVDを購入したようなもんです)。

この演奏でも、あちこちでバシバシいってます。いってるのですが……何を叩いているのか、かなり注意していたつもりであるにもかかわらず、とうとう確認することはできませんでした。チェリ様は譜面台を置かず、暗譜で指揮しているため、おそらくは弦の各トップ奏者の譜面台をひっぱたいている(コレ、やられる方はコワいだろうなあ……)ものと思われますが、決定的瞬間はおさえられずじまい。

……もしかして、これってラップ音だったりして(^^;;;



※……演奏とは何の関係もありませんが、も一つ気になってしかたなかったのが、最前列の黄色いバカ。演奏中だというのにさぞやつまらなかろう講釈をのべつまくなし隣席の耳元にささやいてやがります。NHKホールの三階席などでもこの手のバカはよく見かけましたが、こっちは最前列ですよ、最前列。カメラがそいつをとらえるたびごとにわたしのなかでどす黒い殺意が鬱勃とこみあげてきます。チェリ様も余程気になっていたものと見えて、ベートーヴェンの一楽章でそちらを振り返ってにらみつけていました。

何という不敬!許すまじ、黄色!!!

*1:マルチ・マイクのミキシングの加減も問題ありで、演奏のアラ……というか質感のなさをことさらに強調している気味がないとはいえません。