フランソワのショパン/バラード第四番

フランソワのバラードというとまず一九五四年の全曲盤を思い浮かべる方が多いかと思いますが、その二年前にも第四バラードが正規に録音されています。

最初の録音は、微妙にゆらぎつつも流れのよい好演。予想もしないところを囁くようなピアニシモで弾いたりなんかしちゃって、そんな攻め方されたら聴いているほうはただただため息、ですよ……しかしながら、コーダでヨタって中折れ気味なのが惜しい。

再録音は、上記の演奏でメロメロだったコーダに勢いがあり、全曲を力強く締めくくっています。たぶん、彼としても最初の録音の出来に内心忸怩たるものがあって、再録音するにあたり、ひそかに猛練習したのではないかしらん。*1

しかしながら、コーダもきちんと(フランソワにしては……という留保がつきますが ^^;)弾けていることだし再録音の方がいいか――となるとコトは案外複雑です。

緩急の対比を強調する意味合いからかもしれませんが、この演奏では速いパッセージの弾きかたがやたらと気ぜわしく、ピアノのタッチも、幾分荒れた感じがします。何よりいけないことには、最初の録音に横溢していたあの繊細な情感のたゆたい、匂いたつようなエレガンスがほとんど雲散霧消しています――蓋し、練習のしすぎでインスピレーションが減殺されてしまったのです。

*1:青柳いづみこ女史の『ピアニストが見たピアニスト』によれば、「アメリカで成功」することに執念を燃やしていたりと、フランソワもあれで意外と人間臭い一面のあるひとだったようです。