ギトリスのチャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲

チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲で、たまーに聴きたくなる演奏のひとつに、イヴリー・ギトリスの若い頃のヴォックス録音があります。オケはホルライザー指揮のウィーン響。

なんといっても、えらく闊達な弓さばきに耳を奪われてしまいます。ただ単に正確だとか技巧的だというのではなし、闊達とは表情と気概のことを言います。実際、あざといくらいに表現意欲に満ち溢れている演奏。フィナーレに関しては、ギトリス盤がいちばん突き抜けた快感を約束してくれるのでは。

ただ、二楽章の、翳りに乏しい――それ自体をとってみれば、引き締まって艶にも欠けない美音なのですが――ヴァイオリンの響きを聴いていると、ギトリスがエルマンやオイストラフのような「華々しい存在」になれなかった理由が何となく分かるような気もします。

当のギトリスは、ヴォックス録音ではシベリウスの協奏曲を気に入っていたみたいで、これはホーレンシュタインの指揮がまたすばらしい(ブルッフの第一にいたってはさらにその上を行きます)。ホルライザーはそれと比べるといささか因習的でしょうか。