レイ・チェン

NHK-BSでレイ・チェンのヴァイオリン・リサイタルを観ました。この青年、以前ちらっと触れた木嶋嬢もエントリーしていたエリザベート国際コンクールで一位優勝したという期待の星だとか。

フランクのソナタの最初の一分を聴いただけで、これはいいなあ、と思えました。

弓圧の高い、たっぷりした美音がまずうれしい。ヴァイオリンは本質的に反・禁欲主義の楽器だと思いますので。そして、かれのヴァイオリンは実によく歌います。無作為に音をつなげることをしない、練られたレガートのテクニック。アーティキュレーション機械的になることなく、それでいてヨーヨー・マみたような演歌調に陥っていないセンスにも感心します。

今回のプログラムは、コンクールの直後でもあることだし、そのために弾きこんでいる作品が多いはずですが、そのわりにこのヴァイオリニストの向き不向きがはっきり出ているのも、わたしには興味深かったです。

むろん非常なテクニシャンなのですが、フランクのフィナーレを聴いてあれっと思ったのは、運弓がやや重たく、音がかろやかに飛ばない憾みのあることです。疲れが出たのだろうかと最初は思いかけたのですが、ヴィエニャフスキエチュード・カプリスでも軽業的なスピード感がいま一つ出ておらず、おそらくそのような表現を現時点では得意としていないのでしょう。

そのかわり、フランクの三楽章やヴィエニャフスキの伝説曲は、思い入れをこめて重厚に歌いあげるあたり、はたちかそこらの青年ばなれしており、そういったところにより深く思いを致しているのが見てとれます――つまるところ、優等生的なキズのない演奏ではないのです。良くも悪くも。

このままでいいとまでは思いませんが、まだ二十歳の青年です。小さくまとまってしまわないスケールの大きさが感じられるところを、わたしとしては買いたいと思います。

下馬評では木嶋嬢が大本命だったとかで、評決が不当だとかいう声もあるようですが、わたしの聴く限り、現時点ではかれの方が聴く者の心を引きつける輝きを身にまとっているように感じました。