リヒテル/ジョルジェスクのシューマン

リヒテル/ジョルジェスク/USSR響によるシューマンのピアノ協奏曲を聴きました。一九五八年のライヴ録音です(DOREMI)。

ジョルジュ・ジョルジェスクはルーマニア出身の指揮者で、リヒャルト・シュトラウスニキシュの薫陶を受け、帰国してのちは長くブカレスト・フィルのポストを務めた、かの国の楽壇の第一人者です。元来がチェロ奏者であったこともあってか、徹底したピラミッド型バランスの音楽作りで、低弦をたっぷりと鳴らした重厚なひびきは、たとえばカイルベルトなどと比べても著しく「ドイツ的」である、といってもいいくらい。

一楽章はやや安全運転気味でしたが、二楽章からぐっと脂がのってきます。第二主題はびっくりするくらい甘さ控えめのシブい歌で、なんだかブラームスを聴いているような気さえ。まさしく男のロマン。派手さこそない芸風ですが、充実度はきわめて高く、ほんものの音楽を聴くことができた、という深い満足感があります。

客演指揮ですが、USSR響はその力強さを十分発揮しているでしょう。エネスコが一九四六年にこのオケを指揮したチャイコフスキーの第四交響曲で、オーボエのえらくひなびた音色が印象に残っていたのですが、そのなつかしい響きに再会(笑)。同一人物でしょうか?

一方リヒテルのピアノは、最初はやや固く、持ち直してきたかと思ったら二楽章ではこの人らしからぬ記憶か何かのスリップがあったりして、全体にいまひとつ集中力に欠けるようです。残念ながら、壮年期のリヒテルとして最高の出来ではないでしょう(ガウクとの一九四八年録音なんか三楽章がスサマジイことになってたもんなあ)。

リヒテルとジョルジェスクの顔合わせは、ほかにブラームスの第二協奏曲やシュトラウスのブルレスケなどもありますが、指揮者にとって所縁の演目でもある後者こそ、かれらの本領が発揮された名演ではないかと。