ロスタル/ミュートン=ウッドのブゾーニ

ミュートン=ウッドはマックス・ロスタル(参考にならない参考記事)のお気に入りのピアニストのひとりで、かれらは一九五二年にブゾーニのヴァイオリン・ソナタ第二番をスタジオ録音しています。レコードはウェストミンスターとアーゴからリリースされたといいますが、制作元はどちらか判然とせず(CD復刻は豪ABC)。

ロスタルはいつにもまして渋いです。ヴィオラを弾いているのかと思うような暗い音彩で、テンポはシゲティ/ハスキルの名演の四割増しというとてつもなく遅いもの(三楽章だけで約二十七分かかります)。そうでなくても晦渋の気味なしとしないこの曲だけに、わたしも最初はいささか面食らいました(この曲をはじめて聴くという人にはオススメできかねます)が、聴けば聴くほどこれが味わい深かったりします。*1全曲をひじょうに長い射程でとらえて、三楽章のおわりまで強い緊張を保ちつつ、聴き手をクライマックスへ、そして穏やかな静寂へと導くその手腕はただならぬもので、そこには一種被虐的な快感があるかもしれない(^^;

ピアニストはここではヴァイオリンの女房役に徹しているようで、ピアノにはちょっとしんどそうな部分のあるテンポは、疑うべくもなくロスタル主導でしょう(音録りもヴァイオリン中心で、ピアノのタッチは芯がない……)。ハスキルと比べたら少しかわいそうかなと思いますが、対位法的な網目の緻密なところなど、常設デュオだけのことはあるでしょう。

ロスタルは五十年代後半に、コリン・ホースリーというお世辞にも上手とはいえないピアニストとシューマンシューベルトをレコーディングしていますが、こいつがミュートン=ウッドの後釜だったのではないか、とわたしはにらんでいます。せめてシューベルトの幻想曲だけでも、ノエルのピアノで聴きたかったなあ……

*1:ふたつの演奏を聴いて得られる感動の質はそれぞれに異なります。シゲティ/ハスキルがイタリア・ルネサンスの名画を思わせるとすれば、ロスタル/ミュートン=ウッドは最晩年のレンブラントといったところでしょうか。これは、どちらがよりすばらしいというものではありません。