つまみ食いの続き

キーシン*1はアンコールの一曲目に革命を弾きました。オケマンの態度は何となく軟化(笑)

このピアニストをまともに聴くのは久しぶりです。神童時代のメニューインみたいに、「型」あって情なし、という感じがして好きになれなかったのですが、このエチュードには時にその型を内側から突き破ろうとする何かがあったような気がします。

しかし、エチュードと、拍手をうけてさらに弾いた二曲のワルツ(第七と第十四番)を通じて、音楽を「作った」感じが露骨に出ているのが気になりました。たとえば嬰ハ短調のワルツの中間部の流露感に乏しい、不自然なフレージング。主部ではときどきさりげない揺らしがあって、こういうところはさすがに良いなあと思わされますが……(こういう上手さこそ、彼が持って生まれたものでしょう)

以前のキーシンは、面白みはあまりないかもしれないけどテクニックやスタイルは完璧といってもいいものでしたが、今回聴いた演奏にはある種のちぐはぐさがあり、不惑を前にしたピアニストが試行錯誤の時期にあるのではと思わせます(この三曲など、もう目をつむってても弾けるくらい弾いてきたはず)。

子供の頃から大人顔負けの絵を描いてきたピカソは、老境に至って「やっと子供が絵を描くように描けるようになった」と述懐したとかいいますが、これまたガキの頃から大人みたいな演奏をしてきたキーシンが、「子供がピアノを弾くように」演奏できるようになったら……なんてことをふと思いました。

*1:彼が第二協奏曲でトリをとった模様。