「モオツァルト」で思い出した
中山可穂の『猫背の王子』。新字新かなの文章のなかにまぎれこんだ「モオツァルト」はなおのこと凄まじい小林秀雄臭を放っています。
まあ処女作だから仕方ないか、と思うしかなくて、それを言ったらキリがないだろうというくらい「若さ」が爆発しつつも奇妙な老成と混合している、不思議な小説です。
仮名遣いということであれば、『サグラダ・ファミリア』でスペインに留学したピアニストに師匠を「カヴァリエ先生」と呼ばせているのも、些細なことながら、いただけません。
スペイン語ではbとvの発音を区別しない、というのは全くの門外漢たるわたしでも知っているくらいなのだから、「ロルカの言葉の音楽性を味わうには原語で読むべきだよ」と言うひとがそれを知らないというのでは話が通りません。Beethovenはベートーベンと表記しているんだからこんなときだけ変に書き分けなぞしなけりゃいいのに。
この小説はピアニストが主人公なのでわたしのようなクラシック好きにはツッコミどころ満載の楽しい読み物となっております。「スタインウェイしか調律しない調律師」って、ベーゼンドルファーとかベヒシュタインはお断りなんかいな。
……とかなんとか言いつつも、中山可穂は大好きな作家です。