遺作変奏曲の排列(一)

遺作変奏曲の演奏史はコルトーを以てその嚆矢としますが、わたしが最初に聴きなじんだ交響的練習曲のレコードもこのピアニストの一九二九年録音でした。これがいわゆる刷り込み盤になっているので、こういう曲だと思って何気なく聴いてきた面があるのですが、あらためて耳を傾けると、このピアニストの一筋縄では行かない「たくらみ」が明らかになってきます。

というのも、コルトーが遺作変奏曲を弾いているのは、一義的にはそれらに対する愛惜の念からだと思うのですが、それと同時に、ピアニストはここで、変奏曲を挿入することによって原曲に新たな光をあて、独自の表現効果を積極的に追求しているのです。それはときに不敵とも思われる大胆さであり、その発想と着眼点の鋭さは今なお聴き手に生々しく訴えかけてきます。


コルトーの演奏で変奏曲が挿入されているのは、主に曲間の対比がそれほど強くない部分です。

遺作の第一変奏曲(Andante, Tempo del tema)はエチュードの第一と第二のあいだにごく自然と溶けこんでおり、それでいて単調さを感じさせないあたりに苦心のほどが見出せますが、特筆すべきは第四変奏曲(Allegretto)をエチュードの第六に前置することによって生まれる、静―動のコントラストでしょう(すなわち、シューマンの音楽ではおなじみの、オイゼビウスとフロレスタンです)。それ自体きわめて効果的であると同時に、第六エチュードの切迫感と力強さとを表現としてより生かすことにもつながっているのです。

(今日のところはここまで)

*1:楽想の指示についてはここから引用しています。