Old Masters

レフ・プイシュノフ

レフ・プイシュノフ(Leff Pouishnoff, 1891-1959)はロシア出身のピアニストで、ペテルブルグ音楽院でエシポワに学びました。プロコフィエフや、これはてっきりブリュメンフェリトの弟子とばかり思っていたのですが、シモン・バレルと同門にあたります。バ…

ロスタル/ミュートン=ウッドのブゾーニ

ミュートン=ウッドはマックス・ロスタル(参考にならない参考記事)のお気に入りのピアニストのひとりで、かれらは一九五二年にブゾーニのヴァイオリン・ソナタ第二番をスタジオ録音しています。レコードはウェストミンスターとアーゴからリリースされたとい…

ついでといっては何ですが

手許にあるチャイコフスキーの第二協奏曲をもう少し聴いてみます。有名どころでは、どういうわけかギレリスがちょくちょくこの曲を弾いており、三つの同曲異演がのこされているようです。そのうちわたしが聴くことのできた盤は、一九四八年、コンドラシン/レ…

ミュートン=ウッドのチャイコフスキー/第二協奏曲

チャイコフスキーのピアノ協奏曲第二番は、全集録音を手掛けるでもなければ弾くピアニストもめったにいない曲ですけど、ミュートン=ウッドの演奏(これまたDANTE盤全集中の一曲)は、思うに、かれの第一協奏曲にもましてすぐれた成果をおさめています。*1た…

ミュートン=ウッドのチャイコフスキー/第一協奏曲

ミュートン=ウッドによるチャイコフスキーのピアノ協奏曲第一番(DANTE)も、二十世紀音楽同様、大向こうをうならせるような演奏だとはいえないでしょう。この曲の名盤といえば誰しもが思い浮かべるであろうホロヴィッツやリヒテルとはかなり様相を異にする…

ミュートン=ウッド/二十世紀音楽集

ミュートン=ウッドの自死は、恋人の後追いというといかにもロマンティックなひびきを帯びてきこえるかもしれませんが、彼に親しい人々によれば、自分は正当に評価されていないという積年の不満もまた死の引き金に手をかける一因であったのでは、といい、ブリ…

リヒテル/ジョルジェスクのシューマン

リヒテル/ジョルジェスク/USSR響によるシューマンのピアノ協奏曲を聴きました。一九五八年のライヴ録音です(DOREMI)。ジョルジュ・ジョルジェスクはルーマニア出身の指揮者で、リヒャルト・シュトラウスとニキシュの薫陶を受け、帰国してのちは長くブカレ…

モーツァルトのヴァイオリン・ソナタ

セルゲイ・ハチャトゥリアンという若いヴァイオリニストの演奏で、モーツァルトの変ホ長調のヴァイオリン・ソナタ(ケッヘル番号は三七八)を聴きました。ピアノは彼のお姉ちゃん。これまた、上手い青年です(ヴィエニャフスキだのパガニーニだのではなし、…

とことんラテンな愉しいシューマン(主にオケが)

シェベック/フレモー/パドルー管によるシューマンのピアノ協奏曲をひさしぶりに聴きなおして、思った以上に楽しむことができました。シェベックのピアノは、劇的に盛り上がる場面など音の運びがいささかストレートにすぎて、スケール感に乏しい憾みがありま…

ミュートン=ウッドのシューマン/イ短調協奏曲

(きのうの続き)DANTE盤でカップリングされているシューマンの協奏曲はベートーヴェンと比べるとかなり特異な演奏で、とくに第一楽章は全曲が翳りに覆われており、第一主題が長調に転じるノクターン風の部分の甘美さもなければ、シューマンの若々しい情熱も…

ミュートン=ウッドのベートーヴェン/ピアノ協奏曲第四番

ベートーヴェンの第四協奏曲でわたしの好きな演奏のひとつは、ノエル・ミュートン=ウッドのレコードです(オケはワルター・ゲーア/ユトレヒト響)。ミュートン=ウッドはオーストラリア出身のピアニストで、シュナーベルに学びました。十八歳のロンドン・デビ…

これくらいのことはしょっちゅうです

わたしもちょくちょくお世話になっているこちらのサイト(申し訳ないけど、こういうあまりに直接的なタイトルをここに引き写す気にはなれません……)に、ソフロニツキーの音源がいくつかあります。ショパンの前奏曲は一九五一年録音とあり、ARLECCHINO から以…

ギトリスのチャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲

チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲で、たまーに聴きたくなる演奏のひとつに、イヴリー・ギトリスの若い頃のヴォックス録音があります。オケはホルライザー指揮のウィーン響。なんといっても、えらく闊達な弓さばきに耳を奪われてしまいます。ただ単に正…

マタチッチのブルックナー/第五交響曲(承前)

(ここの続き)劇的な一楽章、ふかぶかとした――それでいて、いささかも重ったるいところのない二楽章の歌。これだけとってもブルックナー振りとしてのマタチッチの高い力量は瞭然としていますが、後半楽章こそ、壮年期のマタチッチのライヴの真骨頂というべ…

マタチッチのブルックナー/第五交響曲

マタチッチがN響を指揮したブルックナーの五番を聴きました。一九六七年のライヴ録音です(ALTUS)。スプラフォン盤は改訂版による演奏として知られていますが、今回のライヴ録音も、その道に詳しい向きによれば、ほぼ同じ版形態によるものだとか。ここで留…

思い出はうつくしく

朝比奈翁が一九七三年の東京討入りで指揮したブルックナーの第五を聴きました。一部では伝説のライヴと呼ばれているものだとか。翁のブルックナーはわたしも何度か実演で聴いており、そのたび深い感慨を得たものですが、これはカタカナ発音のドイツ語みたよ…

フーベルマンのベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲

フーベルマンが弾いたベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲には、有名なスタジオ録音と、渡米後のライヴ録音とがあります。わたしが今回聴いたのは後者。クロイツェル(シュルツェと組んだブランズウィック盤。再録音はフリードマンのピアノがなあ……)は感心…

デ・ヴィートのベートーヴェン

ジョコンダ・デ・ヴィートはベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を得意としていて、ついに正規録音を残さなかったことを悔やんでいたといわれますが、彼女の死後、プライヴェート音源がリリースされました(これをリリースしたものかどうか、デ・ヴィート本…

フリーダー・ワイスマン

フリーダー・ワイスマンといわれてもご存知ない方が多いかと思いますが、骨董録音愛好家には、ヴォルフスタールのトルコ風やローゼンタールのショパンの第一協奏曲でよき引き立て役を演じている指揮者として、記憶にのこるひとです。そのワイスマンが四十年…

ヴォルフスタールのベートーヴェン

エネスコは別格として、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲ではヴォルフスタールの演奏に特別の愛着があります。フレッシュ門下でコンマス稼業と二足の草鞋、という共通点を有することもあってか、ゴールトベルクとかなり似たタイプの奏者ですが、清楚玲瓏…

シューリヒトのブルックナー/第五交響曲

シューリヒトが指揮するブルックナーの第五を聴きました。ウィーン・フィルとの一九六三年ライヴで、DGGから一度出たきり「幻の名演」と一部で噂になっていた録音です(ALTUS)。スサマジイ演奏でした。個人的には、良くも悪くも――と付け加えたい誘惑に駆ら…

ショパンのバラード第四番

ギンズブルグ(一九四九年、ARLECCHINO) コルトーは九分半くらいで弾いているこの曲ですが、ギンズブルグの演奏は十二分オーバーと、SPレコード一面分余計にかかっている勘定(ただし、ロシアのピアニストは十一分くらいの演奏が多いです)。弾こうと思えば…

アンセルメのベルク

アンセルメといえば、数十年来の親友ストラヴィンスキーが十二音で書き出したからといって大人気なく絶交してしまうくらいのアンチ・ドデカフォニストとして知られていますが、シェーンベルク門下のベルクは例外的にお眼鏡に適ったと見えて、いくつかの録音…

マ・メール・ロワ(承前)

(ここの続きと思ってください)何のかのといって、オリジナルの組曲版によるチェリビダッケ/ロンドン響のライヴこそはわたしにとって至上のマ・メール・ロワです。先師のラヴェルはいずれ劣らぬ名演揃いですが、なかでもこの演奏は、フランス国立放送管を振…

魅惑的な拒否、きびしい拒絶

田中希代子はミケランジェリが嫌いだったと云います(山野楽器のCD解説に収められた『安川加壽子、田中希代子を語る(2)』)。『ああいう音色がないというか、音色を殺すようなピアニストは駄目だと』この批判に対してはふたつの反応が考えられるでしょう…

モリーニのベートーヴェン

よい悪いは別として、もっとも強烈な印象を受けたベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲のひとつに、エリカ・モリーニのライヴ録音があります(DOREMI)。一九四四年、ゴルシュマン指揮ニューヨーク・フィルとの共演です。この盤で何がすごいといって、一楽章…

ヨッフムの謎

ヨッフムの、とくに晩年の演奏を聴くと、ほんとうに良い音楽だなあといつも思います。コンセルトヘボウとの最後の共演となったブルックナーの第五交響曲(TAHRA)は、チェリビダッケのベルリン討入りライヴに匹敵しうる数少ない演奏のひとつだと思いますし、…

マ・メール・ロワ

ラヴェルのマ・メール・ロワには作曲家自身による三つのエディションがあります。ピアノ連弾版、それをオーケストレーションした管弦楽のための組曲版、そしてバレエ版です。連弾版については別の機会に譲るとして、組曲版とバレエ版とでは何が違っているの…

バルビローリ・フリオーソ

思うに、バルビローリにはふたつの顔があります。先日触れた≪マイスタージンガー≫のように、さながら温雅なイギリス紳士を絵に描いたかのごとき演奏がある一方で、チャイコフスキーの第五交響曲では、何があったのかと思うような荒れ狂いっぷりを見せていま…

バルビローリの≪マイスタージンガー≫前奏曲

バルビローリの≪マイスタージンガー≫前奏曲を聴きました。オケはいつものハレ管ではなくロンドン響、一九六九年のスタジオ録音です(cf.→HMV)。一聴、よくも悪くも耳馴染みのない、生まれて初めて聴いたような思いのするワーグナーでした――よくいえば各声部…